相続放棄とは?メリット・デメリットや限定承認との違いも
相続が生じた場合、相続人はどのような手続きを踏んでいけばよいのでしょうか。 相続人には民法で定められた3つの選択肢があります。 相続人は亡くなった方(被相続人)の財産全てを受け継ぐ「単純承認」。 相続人は亡くなった方(被相続人)の財産すべてを受け継がない「相続放棄」。 亡くなった方(被相続人)に程度が不明な債務があり、かつ財産が残る見込みがある場合などに、相続した財産を上限として債務を受け継ぐ「限定承認」。 この記事ではそのうち「相続放棄」のメリットとデメリット、及び「相続放棄」はどのような場合に選択するのかについて、注意点とともに解説します。
相続放棄とは?
「相続放棄」は、亡くなった方(被相続人)の財産のすべてを受け継がないで辞退する、すなわち放棄することです。
相続の対象になる財産には「プラスの財産」と「マイナスの財産」があり、財産を相続すると決まった場合はプラスもマイナスも両方を引き継ぐことになります。
「相続放棄」に関連してくるのは「マイナスの財産」です。
「マイナスの財産」とは、ローンやクレジットなどの借金、税金・光熱費・家賃・電話の回線などさまざまな未払い金、事業に承継による債務、補償債券などを指し、相続が決定するとこれら「マイナスの財産」も受け継ぐことになります。
遺産の相続の際に「マイナスの財産」が「プラスの財産」より明らかに多い場合、債務を負うことを避ける対策として「相続放棄」をする傾向があります。
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●遺贈の放棄
相続を放棄するメリット・デメリット
一度「相続放棄」をすると、原則取り下げができません。
よいことだらけと思える「相続放棄」ですが、メリットもデメリットも存在します。
財産の中身も状況も、そして希望もそれぞれ違いますので、自分にとっての「相続放棄」のメリットとデメリットを確認し、じっくり考えて判断してください。
メリット
●借金などの「マイナスの財産」の放棄ができる
最大のメリットは、相続人が不必要な借金を負わなくて済むことでしょう。
遅延損害金などが生じている場合、それについても返済義務を負うことになります。
「マイナスの財産」を相続するということは、借金などマイナス面をすべて背負うことです。
現状でローンを組んだり、借金をしたりしていない人でも「マイナスの財産」の相続で、自分がローンなどの債務者となることを忘れないでください。
●相続争いに巻き込まれない
「相続放棄」をすることで、相続人ではなくなり、相続争いに巻き込まれなくて済みます。
例えば、同居して介護していた親が亡くなった場合、介護にまったく関心がなく一切サポートもしなかった兄弟姉妹が等分の遺産の相続について強い主張をしてくることも。
兄弟姉妹や親族間で良好な関係を続けていたにも関わらず、遺産分割協議で分割割合を巡り揉めてトラブルになってしまい、訴訟に発展したケースもあります。
デメリット
●借金以外の「プラスの財産」を受け取ることができなくなる「相続放棄」は財産と負債の全てを受け取らない選択です。
しかし、生命保険の死亡保険金に関しては、受け取り名義人が誰かにより受け取りの可否が異なる制度になっています。
・受取人が亡くなった方本人である場合
生命保険の死亡保険金は亡くなった方の財産になるので、受け取れません。
・受取人が亡くなった方以外である場合
生命保険の死亡保険金は亡くなった方の民法上の財産ではないので、たとえ相続放棄をしたとしても受け取れます。
●「マイナスの財産」が多い場合、放棄した人以外の人に負担を背負わせることになる相続権は相続順位の上位から下位に移動し、「マイナスの財産」を他の親族が受け継ぐことになりかねません。
「相続放棄」は個人に決定権があり、放棄した本人には直接「マイナスの財産」は降りかかりませんが、ほかの人の負担を増やしてしまいます。
●一度放棄すると原則取り下げられない
「プラスの財産の方が多いことがわかったのでやっぱり相続放棄を取り下げたい」
このような場合でも一度手続きをしてしまうと取り下げは原則不可能となりますので、慎重に調べるなどしてから判断をしてください。
●代襲相続はできない
「代襲相続」とは、亡くなった方(被相続人)の子供、兄弟姉妹など、本来相続すべき人が亡くなっている場合、その相続するはずだった人の子供が代わりに財産を相続することです。
「相続放棄」では「代襲相続」はできないことを覚えておいてください。
相続放棄の選択をする場合
亡くなった方(被相続人)の財産の中身は「プラスの財産」と「マイナスの財産」に分けられます。
明らかに「マイナスの財産」が上回る場合は「相続放棄」をした方が良いでしょう。
ただし、「マイナスの財産」に気を取られ、財産を正確に把握しないで「相続放棄」をすると大変なことになるので注意が必要です。
例えば、同居していた親が亡くなったとします。
借金などの負債があるのがわかっていたから「相続放棄」をしました。
しかし、同居していた土地と家が親の財産だった場合、その土地と家は親族の所有となり、続けて住むためには家賃を支払わなくてはならなくなることもあり得ます。
「相続放棄」を選択する場合は、じっくり正確に財産の中身を確認すること、なんとなくうっかり見逃してしまう案件のないよう注意してください。
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●相続放棄の手続きと必要書類
相続放棄の注意点
「相続放棄」を行うときは、以下の注意すべき点を確認してください。
場合によっては「単純承認」とみなされ、「相続放棄」が成り立たない。受け継ぐつもりだった財産が受け継げないなどの事案が生じますので気をつけましょう。
●「相続放棄」の熟慮期間は3ヶ月
「相続放棄」の申立ては、被相続人(亡くなった方)が亡くなったとわかってから3ヶ月以内に完了させなくてはいけません。
3ヶ月という短い期間なので日数をカウントし、経過を確認しつつ進めましょう。
仕事などで忙しかったとしても、この期間を過ぎた場合は「単純承認」として相続を行わなければなりませんので注意が必要です。
相続放棄の準備として、3ヶ月のカウントに入る前に必要なものをどんどん用意しておきましょう。
例えば、ポータルサイトで検索する、裁判所のホームページなどで必要書類をダウンロードできるサービスを利用するなど簡単にできることが多くあります。
●亡くなった方(被相続人)の財産に手を付けると「相続放棄」ができない
高価な時計や貴金属類などを形見分けで持ち帰るとします。
この場合、亡くなった方の財産に手をつけたことになり「相続放棄」は成り立ちません。
手を付けたものが「財産」に値するかどうかの最終的な判断は家庭裁判所が対応し、その判断に委ねられます。
●生前に「相続放棄」はできない
「相続」はお亡くなりになったという事実の発覚で開始となります。
すなわち、亡くなっていない方の財産に対して「相続放棄」はできません。
●一部分のみの「相続放棄」はできない
「相続放棄」は全ての財産を受け継がないこと、放棄するということです。
よって、一部のみの「相続放棄」はできません。
●一度「相続放棄」したら取り下げられない
「マイナスの財産がありそうだから放棄したい」
「相続したくない」
このような理由で簡単に「相続放棄」を申述してしまう前に、さまざまな要件をきちんと確認して決めましょう。
●家庭裁判所への申し立てで3ヶ月の熟慮期間を延長できる
「相続放棄」の申立ては、原則3ヶ月の熟慮期間内で完了させなくてはなりません。
財産の調査に時間がかかり、「単純承認」や「相続放棄」「限定承認」のいずれにも決められない場合は、家庭裁判所に3ヶ月以内に申し立てることで熟慮期間の延長が可能になります。
●相続人全員が「相続放棄」をした場合、財産は国の管理に帰属することになる
この場合、原則として家庭裁判所で選任された相続財産管理人による調査、清算を経て、財産は国の所有になります。
●「相続放棄」により生命保険金が受け取れないこともある
相続放棄をすると財産と負債の全てを受け取ることができなくなります。
生命保険金も同様で、相続放棄をした場合は、亡くなった方本人が受取人になっている生命保険金は受け取れなくなります。
しかし、生命保険の証券上で受取人が亡くなった方ご本人ではない場合、民法上の相続財産ではないので相続放棄をしても受け取ることができます。
ただし、生命保険金や死亡退職金は相続税法上では相続財産とみなされますので、生命保険金や死亡退職金を受け取った場合は相続放棄していても相続税を支払うことが必要です。
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●相続放棄
相続放棄と限定承認との違いは
「相続放棄」のほかにもうひとつ、相続人が負債を受け継がなくても済む方法があります。
それは「限定承認」です。
相続したい「プラスの財産」と相続したくない「マイナスの財産」の両方があり、最終的にプラスになるかわからないときなどに「限定承認」の手続きをとる傾向があります。
「相続放棄」と「限定承認」の特に大きな違いは概要と申述人です。
相続放棄 | 限定承認 | |
概要 | 相続人が亡くなった方(被相続人)の財産、権利、義務のすべてを受け継がず放棄すること | 亡くなった方(被相続人)に程度が不明な債務があり、かつ財産が残る見込みがある場合などに、相続された財産を上限として債務を受け継ぐこと |
申述人 | 相続人単独で行える | 相続人全員が共同して行う必要がある |
申述の期間は双方ともに3ヶ月以内であり、申述先も同様で、双方とも亡くなった方(被相続人)の最終住所を管轄する家庭裁判所となります。
相続放棄の期間・手続きの流れ
様々な申述には必ず定められた期間があります。
「相続放棄」の申述期間も然りで、亡くなった方(被相続人)の最後の住所を管轄する家庭裁判所に期間内に申述してください。
「気持ちや親族との会議などが落ち着いてから申述したら間に合わなかった」
このようなことに陥らないよう、必要書類と期間、手続きの流れを確認して計画的に進めましょう。
相続放棄の期間
「相続放棄」をする際には、熟慮期間と呼ばれる期間内に申立てを行う必要があります。
「相続放棄」の申述は、財産を保有する方(被相続人)が亡くなった事実と、加えて自己が法律上の相続人になった事実がわかったその日の翌日から3ヶ月以内に行います。
被相続人が10月10日に亡くなり、その日に亡くなった事実を知ったとすると、10月11日から3ヶ月以内が「相続放棄」の期限になるというわけです。
この期間を過ぎると自動的に「単純承認」とみなされますので注意しましょう。
「相続放棄」の手続きの流れ
●申述の必要な書類
裁判所のサイトから、「相続放棄申述書」と記入例のダウンロードができます。
「相続放棄申述書」に加え、全ての申述人(相続を放棄する方)が共通で用意する書類、そして、申述人を亡くなった方との間柄により異なる書類があります。
よく確認して、余裕を持って期間内に準備しましょう。
申述書を記入し、必要書類を漏れなく用意してから手続きを開始してください。
なお、申告に必要な書類一覧を以下に案内します。
<裁判所ホームページより>
相続放棄に必要な書類
【共通書類】
(1)相続放棄の申述書(裁判所のHPに掲載されているので取得してご利用ください)
(2)被相続人(亡くなった方)の住民票除票あるいは戸籍附票
(3)申述人(相続を放棄する方)の戸籍謄本
(3)の書類については、申述人(相続を放棄する方)のケースにより下記のように変わります。
【ケース1】被相続人(亡くなった方)の配偶者が申述人として相続を放棄する場合
(4)被相続人の亡くなった記録のある戸籍謄本
【ケース2】被相続人(亡くなった人)の子、その代襲者(孫、ひ孫など)が申述人として相続を放棄する場合
(4)被相続人の出生から亡くなった記録のあるすべての戸籍謄本
(5)非代襲者(本来の相続人)の出生から亡くなった記録のあるすべての戸籍謄本
【ケース3 被相続人(亡くなった方)の父母・祖父母等が申述人として相続を放棄する場合】
ただし、先順位の法定相続人などから提出されている書類は添付の必要なし
(4)被相続人の出生から亡くなった記録のあるすべての戸籍謄本
(5)被相続人の子並びにその代襲者の出生から亡くなった記録のあるすべての戸籍謄本
(6)被相続人の直系尊属の出生から亡くなった記録のあるすべての戸籍謄本
【ケース4 被相続人(亡くなった方)の兄弟姉妹並びにその代襲者(甥、姪)が申述人として相続を放棄する場合】
ただし、先順位の法定相続人などから提出されている書類は添付の必要なし
(4)被相続人の出生から亡くなった記録のあるすべての戸籍謄本
(5)被相続人の子並びにその代襲者の出生から亡くなった記録のあるすべての戸籍謄本
(6)被相続人の直系尊属の出生から亡くなった記録のあるすべての戸籍謄本
(7)非代襲者(本来の相続人)の出生から亡くなった記録のあるすべての戸籍謄本
<注意事項>
※ 戸籍謄本は、除籍謄本、改正原戸籍謄本を含みます。
※ 書類は各1通ずつで十分です。
※ 同じ被相続人(亡くなった方)について、先に行われた相続の承認や放棄の期間を延長するにあたいする事件がある、あるいは先に行われた相続放棄で申述受理事件がある場合、それらの事件ですでに提出している書類については、重複してしまうので今回の提出は必要ありません。
※戸籍などの謄本は、管轄する役所により全部事項証明書と呼ばれることがあります。
※申述する事前に必要書類を入手することが不可能な場合は、申述した後に書類を提出することも可能なので家庭裁判所にお問合せください。
※提出された書類は確認され、審理が必要と判断された際は、必要に応じて追加書類の提出をお願いする場合があります。
●手続きの流れ
・「相続放棄」の手続きにかかる費用を用意する
収入印紙800円・家庭裁判所からの送付用の切手代・戸籍謄本など必要書類の取得代金などが必要です。
・必要な書類を用意し、作成する
裁判所のサイトから「相続放棄申述書」をダウンロードし、同サイトで必要書類を確認して取得します。
・財産調査を行う
正確な財産を確認するために預貯金や不動産の調査をしましょう。
預貯金帳、固定資産税通知書を探す、問い合わせなどをして確認します。
重要なのは負債があるか、あるとすればどの程度なのかといった情報です。
弊社のような専門家に頼むか、親族と協力して情報を集めると良いでしょう。
・家庭裁判所に書類を提出し「相続放棄」を申し立てる
亡くなった方(被相続人)の最後の住所を管轄する家庭裁判所に「相続放棄」に関連する書類を提出します。
この手続きは郵送でも可能です。
・家庭裁判所から郵送されてくる「照会書」に記入して返送する
家庭裁判所から「照会書」が届き、「回答書」に記入して再度郵送します。
・家庭裁判所から郵送で「相続放棄申述受理通知書」が送付されてきて完了となる
「相続放棄申述受理通知書」が郵送で届くので、これを確認し、「相続放棄」が完了となります。
「相続放棄」を検討する際は、財産や債務の内容を正確に把握することが重要です。
申請をする前に関連したホームページの検索やSNS、資料を請求するなど情報を集めるとよいでしょう。
「相続放棄」は失敗すると再申請ができない手続きである上、熟慮期間も3ヶ月と短い手続きです。
よって、弁護士や司法書士、税理士の内、相続を専門的に扱っている事務所にそのような相談をしアドバイスをもらう、専門家が監修しているサイトを参考にする、弁護士に代行してもらうなどの方法もおすすめです。
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