相続放棄の範囲はどこまで続く?相続人の順位や注意点について解説
亡くなった親や配偶者が多額の借金を抱えていた場合、残された家族が損害を受ける可能性があります。
そのような時に有効な手段が、相続放棄です。
相続放棄をした相続人は借金返済を免れます。
しかし、自分が相続放棄をしたせいで別の親族が承継することになり、トラブルが生じるケースもあるので注意が必要です。
本記事では、相続放棄をした後に相続人の範囲や順位がどう変わるのか、手続きする際の注意点などについてくわしく解説します。
相続放棄とは

親や配偶者など身近な親族が亡くなると、亡くなった人(被相続人)が所有していた財産を相続人が承継する「遺産相続」が始まります。
相続の目的は、第1に被相続人の遺産を相続人が承継すること、第2に相続した財産高に見合った相続税を適正に納付することです。
相続税の申告と納付は、原則として相続開始から10ヵ月以内に行わなければなりません。
そのため、相続人は相続が始まったら、被相続人の遺産をすっかり洗い出す必要があります。
相続で受け継ぐ財産
被相続人が遺言書を作成している場合は、財産目録や一覧表が残されているかもしれません。
遺言書は法務局で保管されているケースもあるため、照会してみるとよいでしょう。
遺言書や目録がない場合は、財産の内容を把握するために、現物や書類を探す必要があります。
相続対象となる財産の概要は、以下のとおりです。
プラスの財産
経済的価値のあるもの、金銭に見積もることができるものはすべて相続財産です。
具体的には、下記のようなものが挙げられます。
●本来の財産
・現金、預貯金、有価証券、貸付金などの金融資産
・土地、家屋、山林、農地などの不動産
・貴金属、宝石、書画、骨董品、自動車、そのほか家財などの動産
・著作権、商標権などの知的財産権
●みなし財産
・契約者(保険料負担者)と被保険者が被相続人である生命保険の死亡保険金
・被相続人の死亡をきっかけに支払われる死亡退職金
●被相続人から受け取った特定の生前贈与財産
・相続時精算課税により取得した贈与財産
・相続開始より遡って3年以内(※2024年以降は7年以内に延長)に、被相続人から贈与された財産
・結婚・子育て資金の一括贈与にかかる贈与税について非課税の適用を受けた財産の管理残額
・納税猶予特例の適用を受けた農地、非上場会社の株式や事業用資産など
マイナスの財産
相続する財産は、何かを得る権利であるプラスの財産だけではありません。
被相続人に下記のような負債があった場合、それを返済する義務であるマイナスの財産も継承することになります。
●返済義務が生じるマイナスの財産
・カードローンや消費者金融借入金などの借金
・購入代金、家賃、公共料金等の未払金
・被相続人に課された未納付税
・その他、被相続人名義で締結された給付や返済を伴う契約
厳密には借金ではありませんが、被相続人の葬式や通夜などの葬儀費用もマイナスの財産に含まれます。
遺産総額の算出方法
相続税の対象となる遺産総額の計算には、次の式を用います。
・遺産総額=プラスの財産-マイナスの財産-非課税制度による非課税分
プラスの財産から差し引くことができるマイナスの財産は、多少ならば相続税の減額に役立ちます。
ただし、負債額が大きすぎてプラスの財産を上回る場合は、「相続しない」という選択肢を検討する理由になるでしょう。
相続人の3つの選択肢
相続が開始した時、相続人には「相続をするか、しないか」という選択肢があります。
●限定承認
プラスの財産の限度内で、マイナスの財産を受け継ぐという選択です。
マイナスの財産とプラスの財産を相殺し、相殺しきれなかったとしても追加で負担する必要はありません。
もしも財産が残った場合は、相続することができます。
●相続放棄
プラスの財産を受け取る権利もマイナスの財産を支払う義務も、一切受け継がないという選択です。
相続人という立場そのものを手放すことになります。
●単純承認
プラスの財産もマイナスの財産も、すべて受け入れるという選択です。
あえて選択を行わない場合は、自動的に単純承認したものとみなされます。
相続放棄は単独で手続きできる
「限定承認」は、借金がありそうだけれどいくらあるのかわからないという時に有効な手段です。
借金返済後に残った財産を受け取れるのだから、限定承認のメリットのほうが大きいと思う人もいるでしょう。
しかし、限定承認は相続人全員が同意し、共同で手続きを行う必要があります。
つまり、相続人の中に、自己負担額を捻出してでも実家などを継承したいと考える人がいる場合などは、利用できないということです。
一方、相続放棄は単独で手続きできるため、相続人同士の意見がまとまらなくても選択できます。
まずは、相続人同士でよく話し合うことが大切ですが、限定承認と相続放棄それぞれのメリット・デメリットは覚えておくとよいでしょう。
相続放棄をした時、どこまで相続権は続く?

相続人のひとりが相続放棄をした時、その人が持つ「相続権」はどうなるのでしょうか。
消滅するのか、誰かに順送りにされるのか、気になるところだと思います。
その話をするためにも、先に相続人の範囲について説明しておきましょう。
法定相続人の範囲と順位
相続人には、被相続人の家族や親族の誰もがなれるわけではありません。
民法によって、その範囲と順序が厳密に定められています。
これを、単に「相続人」あるいは「法定相続人」と呼び、その順位は以下のとおりです。
常に:配偶者 第1順位:子ども 第2順位:直系尊属 第3順位:兄弟姉妹 |
●配偶者
被相続人の配偶者は、常に相続人となります。
この時の配偶者とは、法律上に正式な婚姻関係にある人のことで、内縁関係や事実婚パートナーなどは含みません。
配偶者以外の人は、次の順序で配偶者と共に相続人となります。
●第1順位:子ども
被相続人に子どもがいる場合は、優先的に相続人です。
実子か養子かは不問ですが、配偶者の連れ子などで養子縁組をしていない子どもは、同居や生計にかかわらず含まれません。
●第2順位:直系尊属
直系尊属とは、被相続人の父母や祖父母のことです。
一親等の父母、二親等の祖父母の双方が存命している場合は、一親等の父母世代が相続人となります。
実父母なのか養父母なのかは問いませんが、姻戚や叔父叔母などは含まれません。
●第3順位:兄弟姉妹
第1順位、第2順位ともに該当者がひとりもいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。
すでに亡くなっている相続人の「代襲相続」
被相続人の相続開始より前に亡くなっている子どもがいる場合、その子どもの直系卑属(被相続人の孫やひ孫)のうち、被相続人に世代が近いほうが相続権を受け継ぎます。
これを代襲相続といい、代襲相続をした人(代襲相続人)を含めた第1順位該当者が誰もいない場合に限り、第2順位に相続権が移ります。
第2順位には代襲相続がありません。
直系尊属に生存者がいない場合は、次の第3順位に相続権が移るというわけです。
相続権が第3順位にあり、すでに亡くなっている兄弟姉妹がいる場合はその直系卑属(被相続人の甥姪)が代襲相続人となります。
この代襲は一代限りで、甥姪の子世代までは続きません。
相続放棄には、「代襲相続」が発生しない
相続放棄をした場合、その相続人は「初めからいなかったもの」として扱われます。
相続開始より前に亡くなった人は、「いたけれど、今はいない」ため、直系卑属が代理で相続を行うのです。
一方、放棄をした人は「初めからいなかった」のですから、その直系卑属が代襲相続することはありません。
相続放棄の際の相続順位や遺産の割合について

相続放棄した人の「相続権」はどこにいくのでしょうか。
まず、通常の相続における遺産の割合を決める方法を紹介します。
遺産分割方法と相続割合
相続をする場合に「誰がどのくらい相続するか」を決める方法は、次の3通りです。
1. 被相続人が生前作成した遺言書がある場合は、その意思を尊重
2. 遺言書がない場合は、相続人全員の合意を得るために遺産分割協議を行う
3. 遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所に調停や審判の申立てを行って、法定相続分に従う
●法定相続分
法定相続分とは、民法によって示された基準的な相続割合で、相続人の組み合わせによって異なります。
相続順序 | 配偶者あり | 配偶者なし |
配偶者のみ | 配偶者:全部 | - |
【第1順位】子 | 配偶者:1/2、子:1/2 | 子:全部 |
【第2順位】直系尊属 | 配偶者:2/3、直系尊属:1/3 | 直系尊属:全部 |
【第3順位】兄弟姉妹 | 配偶者:3/4、兄弟姉妹:1/4 | 兄弟姉妹:全部 |
遺族の生活を維持するという相続の性格上、被相続人に近い人ほど多く相続できるように配慮されているというわけです。
●相続人が複数いる場合の法定相続分
配偶者以外の相続人が2人以上いる場合は、順位ごとの相続分を均分します。
たとえば、子どもが2人の場合は「子どもの相続分」を1/2ずつ、3人の場合は1/3ずつ、4人の場合は1/4ずつとなり、配偶者の相続分が減ることはありません。
第2順位で両親が揃っている場合、第3順位で兄弟姉妹が複数いる場合なども同様です。
相続放棄した場合の順序と相続割合
相続放棄した場合の順序と相続割合がどのように変わるかは、相続人の人数によります。
それぞれのケースごとにくわしく解説しましょう。
第1順位の子どもが相続放棄する場合
すでにお話したとおり、被相続人の子どもが相続を放棄しても、その直系卑属に代襲相続することはありません。
複数人いる子どものうちの1人が相続放棄した場合、その人の「相続分」はほかの子どもに再配分されます。
たとえば、子ども3人のうち1人が相続放棄した場合は、その人の相続分を残った2人で均分して引き受けるといった具合です。
子どもの全員が相続放棄した場合は、初めから第1順位の該当者がいなかったことになり、相続権は第2順位の相続人へと移ります。
第2順位の直系尊属が相続放棄する場合
第2順位の直系尊属は、「世代の近い者が先に相続人になる」と決められています。
そのため、直系尊属のうち、父母の世代が揃って相続放棄を選択した場合は、祖父母の代、曾祖父母の代と順番に相続人になるということです。
一見、代襲相続と似ているように思えますが、仕組みは違います。
直系尊属の全員が相続放棄をした場合に、ようやく相続権が次の順位に移るというわけです。
第3順位の兄弟姉妹が相続放棄する場合
兄弟姉妹のうち相続する人と放棄する人が混在する場合は、放棄する人の相続分を相続する人たちが均分して引き受けます。
兄弟姉妹が全員放棄する場合、あるいは兄弟姉妹がいない場合、次の順位は存在しないため順送りにすることができません。
ただしこの時、配偶者がいれば、配偶者がすべての相続権を引き受けます。
では、配偶者がいないケースはどうなるのでしょうか。
配偶者が相続放棄する場合
配偶者には、相続順位がないため、相続放棄しても相続権を順送りにすることができません。
相続放棄をした配偶者は「最初からいなかった」ものとして扱われます。
配偶者の相続分は消滅し、その分ほかの相続人の相続分が増えるということです。
ほかの相続人がいないケースで配偶者が相続を放棄した場合、または配偶者を含む相続人全員が相続放棄をした場合は、相続人がいない「相続人不存在」ということになります。
相続人のいない財産の行方
相続人のいない財産は、債権者への弁済を経て、最終的に国庫に帰属します。
しかし、相続財産を管理する人がいない状況では、その手続きを進めることができません。
そこで、相続財産管理人(相続財産清算人)の選任が必要となります。
相続財産管理人の選任は、債権者や特定遺贈を受けた人、特別縁故者など、精算手続きによって利害が生じる人が行うでしょう。
債務が多いことにより相続放棄するケースでは、必ず債権者がいます。
債権者は債務返済を求めるため、早急に相続財産管理人の選任を申し立てるはずです。
しかし、その管理人が選任されるまでの間は、相続放棄をした相続人が財産を管理しなければなりません。
少々辛抱する時間があることを知っておくと、いざという時に焦らずに待てるでしょう。
相続放棄をする際の注意点

相続放棄をする際は、いくつかの注意が必要です。
相続放棄に関連する各シーンの注意点をわかりやすく説明します。
相続放棄手続きについて、4つの注意点
相続放棄は、単に遺産を取得せずにいることや、「受け取らない」と宣言することとは違います。
それらは相続人同士の約束にすぎず、債権者に対する放棄の証明にはなりません。
債権者の督促や支払請求に抵抗するためには、正式な相続放棄が成立した証である「相続放棄受理通知書」や「相続放棄受理証明書」が必要です。
正式な相続放棄は、家庭裁判所に「相続の放棄の申述書」を提出し、審理を経て成立します。
注意①相続放棄の手続きには期限がある
相続の放棄の申述でもっとも注意すべき点は、手続きできる期限です。
相続の放棄は、民法により原則として相続開始を知ってから3ヵ月以内に行うことと定められており、この期間を「熟慮期間」といいます。
相続は、被相続人の死亡を知った日から始まるため、通常は死亡日と同日、あるいは数日以内が開始日となるでしょう。
つまり相続人は、親や配偶者が亡くなったら、できるだけ早いうちに相続財産を洗い出して遺産総額や負債を把握し、遺言書の有無や相続人を確認しなければならないということです。
相続放棄について判断材料が揃わないなど、期限までに決断できない場合は、熟慮期間の延長を申し立てることができます。
ただし、延長の手続きができる期限も熟慮期間内であることに注意しましょう。
とにかく、相続開始から3ヵ月間で動かなければ、相続の放棄も期間の延長もできなくなるというわけです。
注意②全員が相続放棄する場合でも、個別手続きが必要
多額の借金が判明した場合など、相続人が満場一致で相続放棄を選択することもあるでしょう。
しかし、全員が相続放棄する場合でも、共同申請はできません。
申述した本人に対する照会などもあるため、ひとりひとり個別で手続きを行っていきます。
注意③相続放棄はやり直せない
相続放棄の申述は、いったん成立したら撤回することはできません。
遺産を受け取るか受け取らないかということは、人生において大きな選択です。
財産や遺言などを十分に調査して、慎重に検討することをおすすめします。
注意④法定単純承認の成立を回避する
相続には「相続放棄」「限定承認」「単純承認」という3つの選択肢があることをお話しました。
どれかひとつの選択が成立すると、ほかの選択肢は選べなくなります。
単純承認は、通常「ほかの選択肢を選ばなかった場合」に成立する選択肢です。
たとえば、3ヵ月の期限内に相続放棄や限定承認を選ばなかった場合は、自動的に単純承認が成立します。
ここで注意すべき点は、民法によって単純承認を選択したと判断された場合の「法定単純承認」です。
たとえば、相続財産の一部あるいは全部を使ったり、譲渡・売却をしたり、名義変更をしたりすると、「自分が相続する分の財産を処分した」とみなされ、法定単純承認が成立します。
被相続人名義の家賃滞納分を精算したり、預貯金口座の払い戻し手続きをしたりした場合も、財産の処分に該当するでしょう。
法定単純承認が認められると、すでに成立していた相続放棄は遡って却下されてしまいます。
知らずに相続放棄できない状況に陥ってしまうことのないよう、相続放棄を検討する場合は、相続財産に近づかないほうが安心です。
トラブルを防ぐために、お気軽にご相談ください。

相続はいつ起こるかわからないため、ほとんどの相続人は初めての経験に不安や戸惑いの中で不慣れな手続きを行います。
しかし、相続は大きなお金が動くものです。
借金などの債務があるケースでは、判断ミスにより大きな損害が生じる可能性もあるでしょう。
相続放棄を選択すべきか、ほかに最善策はないのか、利害関係を模索している間に期限が来てしまうかもしれません。
相続放棄を検討するような状況というのは、大変なストレスを伴う場合が多いです。
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