農地を相続する際は税金がいくらかかる? 手続きや納税猶予の特例を徹底解説
相続財産に農地が含まれている場合、通常ならば農地も相続税の課税対象となります。
ただし、農地は宅地よりも相続税評価を下げられることが多い為、相続税の負担も軽くできるケースが多いです。
また、農地の利用方法によっては相続税納税猶予の特例を受けられる可能性もあるでしょう。
本記事では、農地を相続した場合にかかる相続税の計算方法、また猶予や免除を受ける方法について詳しく解説します。
相続財産に農地を含む土地がある場合のメリットとデメリットとは?
親や配偶者など近い親族が亡くなると、その遺産を受け継ぐために相続が始まります。
相続の対象となる財産には、基本的に預貯金や現金のほか土地や家屋といった不動産も含まれ、農地もそのうちの1つです。
農地とは
農地とは、「耕作をするための土地」と定義されています。
これは、地目ではなく現況によって判断される点に注意が必要です。
たとえ現在は耕作を行っていない土地でも、いつでも耕作を再開できる状態だと客観的に判断できる土地は農地に含まれます。
しかし、雑草等が生育して簡単には耕作を再開できないような土地や、資材置き場や駐車場など他の用途で利用している土地は、農地として認められません。
農地を相続する場合のメリット
農地は特殊な性質を持っているため、相続にかかる手続きや相続税の計算、納税方法などが、他の財産と異なります。
まずは、相続することで得られるメリットについて確認しましょう。
メリット1:収益を得ることができる
農地を相続する最大のメリットは、農地の活用が利益につながる可能性があることです。
相続人の状況や農地の立地などによって異なりますが、一般的には次のような活用方法が考えられます。
●農業を営む
相続人が自分で農地を耕し米や作物を育て、収穫物を費消したり販売収益を得る方法です。
●農地を貸す
近隣の農家や就農希望者、市民などに農地を貸し出すと、賃料や利用料などで固定資産を少し上回る程度の定期的な収入を得ることができます。
●農地を売却する
宅地化できる農地は建売業者などに、又、宅地化できない農地は近隣の農家や就農希望者に農地を売り、譲渡利益を得ることも可能です。
メリット2:相続税が軽減される
詳細は後述しますが、農地の相続にかかる相続税は宅地などに比べ負担が軽く設定されています。
また、一定の条件を満たせば、納税に対する猶予が設けられていることも大きなメリットです。
農地を相続する場合のデメリット
相続財産に農地が含まれている場合のデメリットとして、次のようなものが挙げられます。
デメリット1:農家以外には農業承継が難しい
相続人が、被相続人が亡くなる前から共に農業を営んでいるというケースでは、農業の承継に対する懸念点は少ないでしょう。
しかし、これまで農業に関わった経験のある人が相続人の中にいないケースでは、次のようなリスクに対する覚悟が必要です。
●収益化できず負債が増える
農作物を育てるためには、手間と時間がかかります。
農業は天候や気温の影響も受けやすく、ノウハウがないうちは思うような収益が得られない場合も多いでしょう。
種苗や農作機械などにかかるコストを考えると、しばらく赤字が続く可能性もあります。
●農地の維持管理コストがかかる
農地を相続した場合、放置しておくと雑草の繁茂や鳥獣被害などが発生するかもしれません。
近隣農家に迷惑がかかったり、農地としての生産性が落ちてしまったりするでしょう。
たとえ、相続人自身が農業を営まないケースでも、定期的な管理を行うことが必要です。
デメリット2:一般的な不動産と比べて売却が難しい
農地は国民の食料生産を担う大切な資源として、農地法によって守られています。
ゆえに、貸し出しや売却を行う際は、市町村の農業委員会への届出や許可申請が必要となるわけです。
近年では農家が減っているため、思うように譲渡先が見つからないケースもあるでしょう。
しかし、農地を耕作以外の目的で使用することは、農地法によって制限されています。
立地条件や生産性によっても対応が異なりますので、農地の利用方法に迷ったら農業委員会へ相談することが大切です。
農地にかかる相続税と計算方法を解説
相続税額を計算する方法は複雑で、「財産の価格×税率」といった単純なものではありません。
ここでは、できるだけ簡潔に相続税の計算方法について解説します。
【1】遺産総額の算出
まずは遺産総額を把握するため、亡くなった人(被相続人)の所有財産の洗い出しが必要です。
このとき、被相続人の債務や葬式費用、非課税財産などを差し引くことができます。
また、一定の条件を満たす生前贈与財産を相続財産に加算する点に注意しましょう。
【2】基礎控除額の計算
相続税の基礎控除額は、「3000万円+600万円×相続人の数」で求めます。
【1】で算出した遺産総額から基礎控除額を差し引いて、残った金額が相続税の対象となる課税遺産総額です。
【3】相続税の計算
相続人の範囲、相続割合などは、民法によって定められています。
この相続人を法定相続人、相続割合を法定相続分といい、実際の遺産分割結果に関わらず相続税の計算には必要な数値です。
●法定相続分による相続税の算出
課税遺産の総額を法定相続分であん分し、相続税率を乗じて、法定相続人ごとの相続税額を算出します。
これを合計したものが、課税遺産に対する相続税の総額です。
●実際の遺産分割による相続税額の算出
相続税の総額を実際の遺産分割に応じた割合であん分します。
利用できる控除や特例などの税額軽減制度があれば適用し、最終的な相続税額を算出しましょう。
農地区分によって相続税額が変わる? 農地区分の種類と相続税評価方法とは
上で紹介した通り、相続税額の計算には相続財産の価格を把握することが欠かせません。
相続財産の価額を決めることを評価といい、財産ごとに評価基準が定められています。
農地には、その立地や自然条件、都市環境等により区分が設けられており、その区分ごとに価値の評価方法が異なることに注意が必要です。
農地区分と評価方法
農地区分には、農地法の区分、農業振興地域の整備に関する法律(農振法)による区分、都市計画法による区分などがあります。
相続財産としての農地区分は以下の4種類です。
区分(1)純農地
都市部から離れた場所にある優良農地のことで、農振法における農業地区域内、都市計画法における市街化調整区域内にあり、農業法における第1種農地・甲種農地に該当します。
●純農地の評価方法
農地の固定資産税評価額×一定の倍率
区分(2)中間農地
中間農地とは、農地法における第2種農地に該当する農地です。
市街地化の傾向が著しい地域の近接区域にある農地で、近傍のうちの売買実例などから第2種農地に準ずると認められる農地も含まれます。
●中間農地の評価方法
農地の固定資産税評価額×一定の倍率
区分(3)市街地周辺農地
その名の通り、市街地への変容が進む区域にあり、農地法の第3種農地に該当、または準ずる農地です。
将来的に宅地等に農地転用される可能性が高いため、宅地として評価してから調整を行います。
●市街地周辺農地の評価方法
(1平方メートルあたりの宅地価格-宅地造成費)×地積×80%
区分(4)市街地農地
市街地農地とは、市街地化が進む地域にある農地です。
すでに農地転用許可を得たものや、農地法の規定により農地転用時に許可の申請を要しない農地なども含まれます。
●純農地の評価方法
(1平方メートルあたりの宅地価格-宅地造成費)×地積
宅地価格の計算式は、下記の通りです。
・路線価が定められている地域:路線価×各種補正×地積
・路線価のない地域:固定資産税評価額×一定倍率
計算に用いる路線価や倍率、宅地造成費については、国税庁のホームページで確認可能です。
≪関連ページ≫
各種補正については、「路線価評価で節税できる!「24種の土地」該当チェックリスト」
をご覧ください。
▼路線価評価で節税できる!「24種の土地」該当チェックリスト
農地にかかる相続税を納めるための手続きと5つのステップ
ここまで農地の評価方法と相続税の計算方法についてお話しました。
次は、相続開始から相続税を納めるまでの流れについて見ていきましょう。
相続開始
相続は、被相続人が死亡したことを知った日から始まります。
まず、次の3つを確認することが重要です。
●遺言書の有無の確認
被相続人が生前に遺言書を作成していた場合、相続の進め方は遺言の内容に従います。
遺産分割方法に大きく影響する可能性があるため、相続開始後すぐに遺言書の有無を調査しましょう。
●相続人の確定
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を集め、誰が法定相続人に該当するかを把握します。
●相続財産の調査
被相続人の所有財産、資産、債務などを調査し、財産目録や一覧を作成しておきましょう。
遺産分割協議
遺言書がある場合はその内容に従いますが、遺言がない場合は相続人全員で遺産分割方法について話し合います。
これを遺産分割協議といい、協議の成立には相続人全員の合意が必要です。
農業委員会への届出
農地の相続人が決まったら、農地がある市町村の農業委員会に相続人が確定した旨の「農地法第3条の3第1項の届出書」の提出をします。
この届出に必要な書類と注意事項は下記の通りです。
●必要書類
・届出書
・権利取得を証明する書類(遺言書の写し、遺産分割協議書の写しなど)
その他、追加書類が必要な場合があります。
●注意事項
届出の期限は、農地の相続が決まった日から10カ月です。
期間内に届出を行わなかった場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記
土地を相続した場合は、さらに相続登記も必要です。
相続登記とは土地の名義変更手続きで、これを済ませることで所有権の移転が完了します。
相続登記は2024年(令和6年)4月1日より義務化されており、相続人確定日から3年という期間内に登記を終えなくてはならなくなりました。
注意点は、施行日以前の相続も義務化の対象であることです。
過去の相続については、義務化施行日より3年以内の2027年(令和9年)3月末までに登録する必要があります。
正当な理由なく義務に違反した場合は、10万円以下の過料が科される可能性があるので注意しましょう。
相続税の算出
遺言書あるいは遺産分割協議書に従って、財産を相続する人それぞれの相続税を計算します。
相続税の計算方法は、先に紹介した通りです。
相続税の申告と納税
被相続人の住所地を管轄とする税務署に相続税申告書類を提出します。
相続税の申告期限は、相続開始から10カ月後です。
つまり、10カ月という短期間に全ての相続財産を洗い出して評価を行い、誰が何を相続するかを話し合い、各種の手続きを経て相続税申告と相続税の納税をしなければなりません。
相続税の納付期限は、申告期限と同日です。
期限を過ぎても相続税の納付が完了しない場合は、1日ごとに利息に相当する延滞税が加算されます。
不慣れな手続きが手に負えないと感じたときは、相続税専門の税理士に相談するとスムーズに進みます。
相続税が軽減される、農地相続での納税猶予の特例と適用要件とは
農地の相続には、相続税の負担軽減を期待できる「納税猶予の特例」があります。
一定の条件を満たすことで納税免除も受けられるため、下記の条件をしっかりと確認しておきましょう。
農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例
納税猶予の特例には、農地、被相続人、相続人それぞれに適用条件が設けられています。
農地の要件
特例の対象となる農地の条件は下記の通りです。
・被相続人が自作で農業、あるいは特定貸付等を行っていた生産緑地・特定生産緑地・三大都市圏以外の市街化農地・市街化調整区域農地等で ①被相続人から相続により取得した農地で、相続税申告期限までに遺産分割されたもの ②被相続人から生前一括贈与により取得して、贈与税の納税猶予特例の適用対象のもの ③相続の年に被相続人から生前一括贈与を受けていたもの |
この場合の農地とは、農地法で規定する耕作の目的に使われている土地、採草放牧地をいいます。
被相続人の要件
特例の対象となる被相続人は、下記のいずれかに該当している必要があります。
①死亡の日まで農業を営んでいた人 ②農地の生前一括贈与をした人 ③死亡の日まで特定貸付け、営農困難時貸付けなどをしていた人 |
相続人の要件
特例の対象となる相続人の条件は下記の通りです。
①相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後も継続する人 ②被相続人から生前一括贈与を受けた人 ③相続税の申告期限までに特定貸付等を行っていた人 |
相続税の納税免除が適用される場合
相続税の納税免除を受けられるのは、下記条件に該当する場合です。
①納税猶予の特例の適用を受けた相続人が死亡した場合 ②特例の適用を受けた相続人が、農業後継者に生前一括贈与した場合 |
特例が打ち切られる場合
下記に該当する場合は、納税猶予が打ち切られる点に注意が必要です。
適用の打ち切りになった場合は、これまでに猶予されていた相続税額と猶予期間の利子である延滞税の支払いを行わなければなりません。
①特例農地等を譲渡した場合 ②特例農地等での農業経営を廃止した場合 ③相続税申告期限から3年目ごとに提出すべき継続届出書を提出しなかった場合 ④増担保または担保の変更を求められた場合に、その求めに応じなかった場合 ⑤都市営農農地等について生産緑地法の規定による買取りの申出があった場合 |
納税猶予の特例の手続きと必要書類
農地にかかる相続税の申告準備としては、本記事で紹介した「農地にかかる相続税を納めるための手続きと5つのステップ」を実行します。
必須条件である遺産分割を済ませられるように、早めに取り掛かると良いでしょう。
そのうえで、必要な書類は下記の通りです。
●相続税申告書類
・相続税申告書
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
・遺言書の写し、または遺産分割協議書の写しと相続人全員の印鑑証明書
・相続税の納税猶予に関する適格者証明書
・特例の適用要件を確認する書類
・特例農地に応じた市町村の長や農業委員会の証明書 ※必要な場合
●担保提供関係書類
担保が特例農地の場合は、以下の書類を必要とします。
・登記事項証明書
・固定資産評価証明書など特例農地等の評価の明細書
・抵当権設定に必要な書類(抵当権設定登記承諾書、印鑑証明書)
農地の状況や担保内容によっては追加書類が必要になることもあるでしょう。
農地の相続で起きるトラブルと解決方法
農地の相続で起こりやすいトラブルには次のようなものがあります。
相続人の意見が合わない
相続人が複数人いる場合、お互いの主張が食い違うことは珍しくありません。
特に、農地を相続して相続後も引き続き農業を行いたい人と売却して現金化したい人がいるケースは、意見がまとまりにくくなるでしょう。
しかし、農業を継続する人が猶予特例を希望する場合、相続税の申告までに遺産分割と農業委員会への証明申請を済ませておく必要があります。
他の相続人に制度を説明するなどして理解を得ることが大切です。
相続税の負担が偏る
農地は宅地と比べて相続税の評価額が低いため、相続税額も安く済みます。
また、猶予特例の適用を受ける場合は、農地分の相続税をすぐに納める必要はありません。
その結果、他の相続人と比べて相続税の負担が軽くなり、遺産分けと併せて不公平を抱く相続人との間でトラブルが生じる可能性があります。
農地相続でお困りの際は、相続税に詳しい専門家にご相談ください。
農地の相続は、宅地相続よりも手続きが多く、また農業法や農振法による制限もあるため、難しく感じる人もいるでしょう。
相続人のなかに農業に携わっている人が少ない場合は、できる限り長く農業を続ける人が猶予特例を利用して農地を相続することが望ましいといえます。
ただし、納税猶予特例には厳しい条件があり、通常よりも期間が長くかかる為、個人で対応することが大変なケースもあるのではないでしょうか。
納税猶予特例はもちろん、農地の相続で困った場合は、相続税と土地相続に詳しい専門家に相談してサポートを受けることをおすすめします。
相続問題を専門とする税理士や、相続問題の経験が多い税理士ならば、専門知識とノウハウを駆使して節税対策を含めた適切なアドバイスが行えるでしょう。
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