兄弟姉妹はなぜ遺留分が認められていない?相続したい場合は遺言書での指定が安心
遺留分とは、相続人の相続する権利を守るための制度です。
「不公平な遺産分割」や「相続財産の第三者への遺贈」を指定する遺言があっても、相続人には最低限の遺産を請求する権利が認められています。
しかし、相続権を持つ親族のうち、遺留分が認められているのは被相続人の配偶者や子供、親のみ。
被相続人の兄弟姉妹には遺留分の権利がありません。
そこで、今回は遺留分侵害額請求の計算方法や手続きの流れを紹介すると共に、兄弟姉妹に遺留分がない理由や兄弟姉妹が遺留分に頼らずに遺産を確保する方法を解説します。
最低限の相続財産を取得する遺留分が兄弟姉妹に認められていない理由は?
遺留分とは、相続人に認められた最低限度の遺産取得割合です。
亡くなった人(被相続人)には自分の財産を自由にする権利がありますが、一方で相続人にも財産を相続する権利があります。
被相続人が相続人以外に相続財産を渡そうとしても、相続財産の一定割合は必ず相続人が取得できるように制限されているというわけです。
これを遺留分制度といいます。
遺留分制度の目的と権利者の範囲
遺留分制度は、主に次のことを目的としています。
・遺族の生活を維持するため
・被相続人の財産形成における遺族の貢献に配慮するため
・相続人同士の不公平感を軽減するため
当たり前ですが、被相続人が亡くなっても残された家族は生活していかなければなりません。
また、被相続人が財産を築くためには配偶者をはじめとする家族の貢献があったと考えられますから、そういった視点からも、限られた範囲の相続人には公平に遺産を取得する権利が認められているのです。
法定相続人の範囲と遺留分の権利
誰が相続人になるかは民法によって決められており、これを法定相続人といいます。
具体的な法定相続人の範囲と順序は次のとおりです。
●法定相続人の範囲と順序
まず、被相続人(亡くなった人)の配偶者(夫、妻)は必ず法定相続人となります。
その他の親族は、下記の順序で相続権を得て配偶者と共同相続人になり、「子供と父母」など順序の異なる者同士が共同相続人になることはありません。
相続の順序 | 被相続人との関係 | 遺留分権利の有無 |
第1順位 | 直系卑属(子供、孫、ひ孫) | 有 |
第2順位 | 直系尊属(父母、祖父母、曾祖父母) | 有 |
第3順位 | 兄、弟、姉、妹、甥姪 | 無 |
ご覧のとおり、法定相続人の中で兄弟・姉妹だけが遺留分の権利を持っていないのです。
それは、なぜでしょうか。
理由その1.相続関係が遠いから
上の法定相続人の表を見ると、被相続人にとっての直系親族である子や父母と違い、兄弟姉妹は傍系親族だということがわかるでしょう。
被相続人との関係が遠いのですから、相続の優先度が低く遺留分の権利もないのは、ある意味、当然だといえます。
理由その2.代襲相続がある
代襲相続とは、相続開始より前になくなっている相続人がいた場合に、その子供や孫が相続人になるという制度です。
例えば、被相続人の子供が相続開始時点で既に亡くなっていた場合は、その子供の子(被相続人にとって孫)に相続権が承継されます。
孫も亡くなっている場合は、さらにその子供(ひ孫)が相続人になるというわけです。
兄弟姉妹が相続人となるケースで代襲相続があった場合、代襲相続人は被相続人にとっての甥か姪に当たり、さらに関係が遠くなります。
もしも兄弟姉妹やその代襲相続人に遺留分を認めてしまえば、被相続人が「妻(夫)に全財産を残したい」と思っているのに、遠い親族である甥姪によって妨げられてしまうかもしれません。
被相続人の意思を尊重するために、兄弟姉妹には遺留分が認められないというわけです。
理由その3.遺族の生活維持が優先だから
遺留分制度の主目的として「遺族の生活を維持するため」「財産形成の貢献者に配慮するため」ということを挙げました。
兄弟姉妹に生計を維持されているケースや兄弟姉妹が財産形成に貢献しているケースは、一般にはそれほど多くないと考えられます。
通常は、配偶者や子供といった生計の維持が直結している親族を差し置いてまで、兄弟姉妹の遺留分を認める必要はないでしょう。
兄弟姉妹が遺産を受け取る2つの方法
もちろん、兄弟姉妹で力を合わせて生活を送ってきた、被相続人の病気療養や介護などのために身を尽くしてきたというケースもあるかもしれません。
また、被相続人自身の子供同然に甥や姪を可愛がっていて、被相続人が自分の財産を甥や姪に相続させたいと考えているケースもあるでしょう。
そこで、ここでは、遺留分のない兄弟姉妹(甥姪)が遺産を受け取るための方法を2つ紹介します。
寄与分を主張する
寄与分とは、被相続人に対して特別な貢献をした人が法定相続分以上の遺産を取得できるようにするために設けられた制度です。
寄与分が認められる「特別な貢献」とは、どのようなものでしょうか。
民法では次のように定められています。
●寄与分が認められるケース
まず、基本として次の条件をすべて満たしていることが必要です。
①被相続人の事業に関する労働、資金の提供、あるいは被相続人の療養看護、介護などを行っている
②被相続人の財産の維持、または増加に貢献している
③ある程度の長期間、専属で行っている
④無償で行っている
⑤相続の権利を持つ親族である
寄与行為に該当する具体的な行動としては、次のような事が考えられます。
・被相続人の事業を手伝っていた
・被相続人の事業に出資をしていた
・介護や長期療養が必要な被相続人のために、仕事を制限してまでも付き添いをしていた など
被相続人のために労働力や資金を無償で提供した場合は、寄与分が認められることもあるでしょう。
遺言に明記してもらう
相続が発生した際、遺言書の内容は最も優先されます。
寄与分を確実に受け取るための一番よい方法は、その旨を遺言に明記してもらうことです。
また、寄与等がない場合でも、「兄弟姉妹に遺贈する」と遺言書に書いてあれば財産を取得できます。
ただし、遺言作成に強制的な圧力を加えたと判断されてしまうと被相続人によって相続権を剥奪される可能性もあるため、打診程度に留めておくことも必要です。
もうひとつ重大な注意点は、他の相続人の遺留分を侵害しないよう配慮するということでしょう。
遺留分がもらえる割合はどれくらい?相続人の範囲を解説
では、兄弟姉妹以外の相続人に認められている遺留分では、どのくらいの取り分が保障されているのでしょうか。
相続人ごとの遺留分割合
遺留分は、相続人の組み合わせによって異なります。
相続人の組み合わせ | 遺留分の割合 |
配偶者と子供 | 配偶者:4分の1、子供:4分の1÷子供の人数 |
配偶者と父母 | 配偶者:3分の1、父母:6分の1÷父母の人数 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者:2分の1、兄弟姉妹:なし |
配偶者のみ | 2分の1 |
子供のみ | 2分の1÷子供の人数 |
父母のみ | 3分の1÷父母の人数 |
配偶者と兄弟姉妹が共同相続人のケースでは兄弟姉妹に遺留分の権利がないため、「配偶者のみ」と同じ状況になるということです。
遺留分額を求めるための計算式と基礎遺産額
相続人ごとの遺留分額を計算するためには、次の計算式を用います。
遺留分の額=遺留分算定の基礎遺産額(相続財産+特定の生前贈与-相続債務)×遺留分割合
被相続人に債務がある場合、相続人はその返済をする義務も相続するということを覚えておきましょう。
ただし、遺留分などの計算を行う際には、相続財産額から相続債務額を控除することができます。
また、遺留分の計算に算入する生前贈与は、具体的に次の2パターンです。
●特定の生前贈与①1年以内の生前贈与
被相続人が生前に贈与した財産のうち、相続開始より遡って1年以内に行われた生前贈与額は遺留分算定の基礎遺産額に加算します。
ただし、被相続人と生前贈与を受けた人の双方が「この生前贈与が相続に影響を与える」と知っていた場合は、1年以上前の生前贈与でも加算の対象です。
●特定の生前贈与②10年以内の特別受益
特別受益とは、結婚資金や住宅資金、教育資金など生計に関わる生前贈与のことで、被相続人から相続人に対して行われた分が対象となります。
こちらは、相続開始より10年前まで遡るため、受け取った年月日や金額、返済している場合はその証拠をきちんと保管しておくことが重要な意味を持つでしょう。
相続人の組み合わせごとの遺留分額を求める
では、「遺留分算定の基礎遺産額」が5000万円である時、相続人それぞれの遺留分額はいくらになるのでしょうか。
実際に計算しながら解説します。
配偶者と子供4人が相続人の場合
遺留分の額を求める式「遺留分算定の基礎遺産額×遺留分割合」に当てはめると、相続人ごとの遺産額は次のとおりです。
配偶者:5000万円×4分の1=1250万円
子供4人:5000万円×4分の1÷4人=312万5000円ずつ
配偶者と子供4人分を合わせると2500万円ですから、基礎遺産額の半分は遺留分として請求することができるという計算になります。
●長男のみが相続する場合
5000万円の遺産を長男のみが相続することになり、配偶者や他の子供たちが遺留分を請求するというケースでも遺留分額の計算に変わりはありません。
「長男は請求者にはならないから、子供の数を3人として計算する」とはならない点に注意しましょう。
配偶者と父母が相続人の場合
配偶者と父母が相続人のケースでは、それぞれの遺留分額は次のとおりです。
配偶者:5000万円×3分の1=1666万6000円(1000円以下切り捨て)
父母2人:5000万円×6分の1÷2人=416万6000円(1000円以下切り捨て)
生活維持という視点からも、被相続人の資産形成に貢献したという視点からも、配偶者のほうがより優遇されていることがわかります。
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合
くり返しになりますが、兄弟姉妹には遺留分の権利は認められていません。
そのため、配偶者のみが遺留分計算の対象となります。
配偶者:5000万円×2分の1=2500万円
兄弟姉妹:なし
遺言書に沿って行われる遺産相続
遺留分の権利に関する問題が発生する相続は、基本的に遺言書や財産の大半を特定の生前贈与している相続でしょう。
遺言では遺産の分割方法や遺贈先など相続に関する様々なことを指定でき、原則として遺産を分割する際には相続人は遺言の内容に従った進め方をしなければなりません。
一方で、遺言書がない相続では、遺産の分割方法を相続人全員で協議し、全員の合意を持って成立とします。
もしも、遺産分割協議によって自分の取得額が少なくなったと主張しても、合意の上とみなされるため遺留分は認められません。
遺言によって指定できる主な事項
遺言書には、被相続人の最後の意思を伝える手段として相続に関する様々な希望を書き残すことができます。
遺産に関わる主な指定事項は次のとおりです。
①遺産分割について、法定相続分とは異なる割合の指定
②誰が何を取得するかといった具体的な遺産分割方法の指定
③相続人以外の第三者へ遺産を贈る「遺贈」の指定
④公共機関や菩提寺、NPO団体などに対する寄付の指定
⑤5年を上限とした遺産分割の禁止
⑥相続人に対する相続権の剥奪(相続人の廃除)とその取り消し
⑦非嫡出子の認知
⑧未成年後見人、未成年後見監督人の指定
⑨遺言執行者の指定
⑩祭祀承継者の指定 などです。
つまり、遺言では「子供は3人いるけれど、相続は長男のみ」「全財産を愛人に渡す」「世話になった団体に全額寄付する」といった指定も可能になります。
だからこそ、遺族の相続権を守るために遺留分制度があるというわけです。
遺留分を侵害されたら「遺留分侵害額請求」ができる
遺言による遺産分割で自分の遺産取得分が少ないと感じた時は、遺留分の侵害を受けていないかどうかを次の手順で確認してみましょう。
①遺留分を請求する権利がある相続人であることを確認
②「遺留分算定の基礎遺産額×遺留分割合」で自分の遺留分額を確認
③取得遺産額が遺留分を下回ることを確認
遺留分額から取得遺産額を差し引いた金額が、遺留分侵害額です。
遺留分侵害を受けた遺留分権利者は、その原因となった遺贈や生前贈与を受けた相手に対して、侵害額相当の金銭を請求する権利を行使することができます。
遺留分の侵害が明らかになり、取り返したいと思ったら、次のステップに進みましょう。
遺留分侵害額請求の流れ
遺留分侵害額請求は、侵害を受けた相続人自身が請求を起こさなくてはなりません。
また、2つの時効が設定されており、期限がきたら権利が無効となってしまうため、のんびりしていられない点にも注意しましょう。
遺留分の侵害を知ったらすぐに行動を起こすことがポイントです。
●第1の時効は1年
第1の時効は、侵害されていることに気づいた日から1年です。
この期間に請求のための意思表示を起こさない場合は、請求権が失われてしまいます。
●第2の時効は10年
第2の時効は、相続開始から10年です。
遺留分の侵害に気づかないまま10年が経過してしまうと、遺留分に関する権利が消滅します。
おかしいと感じたら早めに動き出すことが大切です。
では、ここからは請求の手順について説明しましょう。
請求の意思を表示する
遺留分侵害額請求において、最も重要なポイントは「意思表示をする」ということです。
遺留分侵害の原因となった財産を受け取った相手に対して、「遺留分の権利を侵害されたから、侵害額を請求する」という意思を伝えましょう。
また、意思表示をすることで請求手続きが始まるため、「時効」を気にする必要がなくなります。
なお、意思表示には内容証明郵便を使うと効果的です。
●内容証明郵便で請求文書を送る
内容証明郵便では、「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」ということが具体的に郵便局に記録されます。
また、一般書留と同様に引き受けから配達までの送達過程が記録されるため、相手方が受け取ったことも証明できるというわけです。
協議を行う
相手方と連絡がついたら、請求に関する協議を行いましょう。
被相続人と受贈者の双方が「ただ遺留分の知識がなかっただけ」というケースでは、話し合いによってあっさりと片がつく場合もあります。
その場合は、どのように返済するかを明記の上、双方の署名と押印をした文書を作成しておくと安心です。
しかし、請求に応じてもらえない、あるいは話し合いにもならないといったケースでは、次のステップに進むことになるでしょう。
家庭裁判所で調停を申し立てる
相手方の住所地、あるいは申立人(遺留分権利者)と相手方の双方合意の場所を管轄とする家庭裁判所で、遺留分侵害額請求調停を申し立てます。
調停は、裁判官または家事調停官、家事調停委員が当事者双方の言い分を聴取し、中立の立場から全員が納得できる解決案を模索する場です。
どうしても合意にいたらない場合は、訴訟に発展するケースもあります。
侵害請求をされたらどう対応すれば良い?
兄弟姉妹には、遺留分を請求する権利はありません。
しかし、遺言や生前贈与によって遺留分権利者の遺留分を侵害してしまう可能性はあるでしょう。
被相続人の配偶者や子供から、遺留分侵害額を請求された場合はどのように対応すれば良いのでしょうか。
金銭での請求に応じる
この記事でもお話ししてきましたが、相続人が相続する権利も遺留分を請求する権利も民法によって認められています。
つまり、特別な理由がない限り逆らうことはできないというわけです。
とはいえ、遺留分を侵害するほどの財産を受け取ったということは、侵害額相当の金銭をすぐには準備できない場合も多いでしょう。
●支払猶予について話し合う
遺留分侵害額請求において、遺留分権利者と受贈者の間の合意があれば支払い方法を柔軟に決めることが可能です。
分割や支払猶予など、双方が納得できる支払い方法を探しましょう。
どのように決まったのかを文書に残し、支払い期限や明細などをしっかり記録しておくことが大切です。
代物弁済で対応する
遺留分侵害額請求では、遺留分権利者と請求を受けた受贈者双方の合意があれば、財産による支払いもできることになっています。
この場合の財産とは、遺留分を侵害した物件そのものでもそれ以外の財産でもどちらでもかまいません。
財産を受け取ったものの、遺族に気後れする、正直手に余るといった場合は、受け取った財産そのものを返還することもできるというわけです。
●税務に注意が必要
代物弁済を行った場合は、相続が終わった後で代物弁済した財産の譲渡があったとみなされるため、税務が複雑になるという注意点があります。
状況によっては、渡した側に所得税の申告納税義務が生じたり、相続税の修正が必要になったりするため、慎重に検討しましょう。
遺留分について詳しくはプロへ相談
遺留分トラブルに不安がある場合は、早めに相続税のプロに相談すると安心です。
調停や訴訟にまで発展してしまった場合は弁護士に依頼して争うことになりますが、時間もかかり、請求する側もされる側も体力と精神力を消耗してしまうでしょう。
したがって、遺言書を作成する前に専門家に相談してトラブルを回避したほうが無難だといえます。
弁護士は法律の専門家であり税金のプロではありませんが、相続税に詳しい税理士ならば、弁護士とのチームプレーにより相続に関連する悩みをサポートすることが可能です。
遺留分侵害を請求する際、あるいは請求された際の手続きはもちろん、トラブル回避に有効な遺言書の書き方を知りたい場合にも頼りになります。
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