生前贈与の非課税枠は2500万円と年110万円
生前贈与の相続時精算課税制度を利用すると、最大2500万円に贈与税はかかりません。
2024年(令和6年)の税制改正により毎年110万円の基礎控除が新設され、さらに大きなメリットを得られる制度に変更されました。
本記事では、相続時精算課税制度を活用する際の方法や注意点について解説するとともに、相続税対策にも使えるさまざまな非課税制度を紹介します。
非課税枠2500万円の制度「相続時精算課税制度」とは?
相続時精算課税制度とは、生前贈与で利用できる税額軽減制度の1つです。
名称が表す通り、この制度を通じて行った生前贈与は、贈与税の支払いが不要となる代わりに相続税で精算することになります。
特徴や制度のポイントは、下記の通りです。
相続時精算課税制度の概要
相続時精算課税制度を利用するためには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に、一定の書類を添付した「相続時精算課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
●適用要件
贈与者(財産を渡す人):60歳以上の直系尊属(父母や祖父母)
受贈者(財産を受け取る人):18歳以上の直系卑属(子や孫)
●利用手順
①贈与者が、適用要件を満たす贈与を行う
②受贈者は、「相続時精算課税選択届出書」を作成し、初年度の贈与税申告期間内に一度だけ所轄税務署に提出
③届出が受理されると、その贈与者は「特定贈与者」となる
④以降、その特定贈与者の行う生前贈与は、すべて相続時精算課税が適用される
●非課税枠
特定贈与者から受けた生前贈与のうち、下記の財産には贈与税がかかりません。
①基礎控除:年間110万円まで ※1月1日から12月31日までを1年間とする
②特別控除:累計2500万円まで
相続時精算課税制度のポイントと注意点
この制度は、一度選択すると途中でやめることができません。
また、特別控除の2500万円を超える生前贈与には、一律20%の贈与税がかかります。
ただし、特別控除の非課税枠を使い切っても、年間110万円の税額控除は利用可能です。
「相続時精算」の流れ
特定贈与者が死亡すると、この制度の適用を受けた贈与財産は相続財産に加算され、相続税の課税対象として精算が行われます。
但、基礎控除110万円によって差し引かれた分は、相続税に加算されません。
また、生前贈与時に税率20%で納めた税額については、相続時に相続税と相殺され、相殺しきれなかった分は還付されます。
●相続税にも基礎控除がある
相続税の計算で用いられる基礎控除の特徴は、「3000万円+(500万円×相続人数)」と額が大きいことです。
そのため、他の相続財産評価額や相続人数によっては、相続財産への加算が大きな負担とはならないケースもあるでしょう。
改正によって新設された1人年110万円の非課税とは?
2024年(令和6年)の税制改正により、相続時精算課税制度には「年間110万円の基礎控除」が新しく創設されました。
これによって生じた違いについて説明します。
実質2500万円以上の財産が非課税になる
改正前は、贈与税がかからずに贈与で受け取れる財産は、2500万円が上限でした。
しかし、改正後の制度では、原則として先に基礎控除が差し引かれてから特別控除が適用されるため、さらに贈与税を節約できるのです。
●改正前(3000万円を一括贈与した場合)
特別控除3000万円ー2500万円=500万円
・贈与税額:500万円×20%=100万円
・相続財産加算額:3000万円
●改正後(3000万円を一括贈与した場合)
特別控除3000万円ー110万円ー2500万円=390万円
・贈与税額:390万円×20%=78万円
・相続財産加算額:2890万円
贈与額を工夫すると節税効果アップ
基礎控除を毎年利用できることを考慮すると、節税効果をより高められます。
例えば、下記のように贈与を分割するケースで計算してみましょう。
●改正後(3000万円を500万円×6回に分割贈与した場合)
1年目:2500万円-(500万円-110万円)=「特別控除枠残」2110万円
2年目:2110万円-(500万円-110万円)=「特別控除枠残」1720万円
3年目:1720万円-(500万円-110万円)=「特別控除枠残」1330万円
4年目:1330万円-(500万円-110万円)=「特別控除枠残」940万円
5年目:940万円-(500万円-110万円)=「特別控除枠残」550万円
6年目:550万円-(500万円-110万円)=「特別控除枠残」160万円
・贈与税額:0円
・相続財産加算額:2340万円
相続時精算課税制度のメリットとデメリット
前項で説明した基礎控除の創設により、相続時精算課税制度の節税効果は高まり、使い勝手が良くなりました。
とはいえ、まったくデメリットがないというわけではありません。
ここでは、相続時精算課税制度のメリットとデメリットについて解説します。
相続時精算課税制度のメリット3つ
相続時精算課税制度の最大のメリットは、税金の負担軽減効果です。
その高い節税効果を活用して、大きな恩恵を得ることが期待できます。
メリット1.年間110万円+2500万円の大きな控除がある
繰り返しになりますが、「特別控除:最大2500万円+基礎控除:毎年110万円」という大きな控除枠は、他では得られない大きなメリットです。
また、贈与財産には現金や預貯金のほか、土地や家屋などの不動産、国債や株式などの有価証券、宝石貴金属など、経済的価値に関連するさまざまな物が含まれます。
贈与額や回数、種類などを考慮すると、さらに活用の幅が広がるのではないでしょうか。
メリット2.非課税枠を超えても税率が一律20%
基礎控除と特別控除の非課税枠を超えた分には、贈与税がかかります。
通常、贈与税は課税金額が高いほど税率も高くなる累進課税です。
しかし、この場合の税率は課税金額にかかわらず一律20%となっており、納税額や手取額がわかり易いでしょう。
メリット3.相続対策としても有効
将来的に遺産を巡る争いが予想される場合は、その原因となる財産を生前贈与してしまえば、トラブル回避につながります。
また、所有者が生きているうちに財産分与をすることで、渡したい相手に確実に渡せるという点もメリットの1つです。
相続時精算課税制度のデメリット3つ
一方、相続時精算課税制度の主なデメリットとしては、以下の3つが挙げられるでしょう。
とはいえ、デメリットの中には特定の条件下で生じるものや、工夫次第で無効化できるものも含まれています。
ですので、自分のケースで考えるとどのようなデメリットがあるのか、対策は可能なのかを把握しておくと安心です。
デメリット1.暦年贈与に戻れない
改正前の制度では、特別控除の非課税枠を使い終えた後で暦年贈与に戻れないことは、大きなデメリットでした。
しかし、特別控除とは別に基礎控除が設けられた改正制度では、暦年贈与に戻れないことに対するデメリットはほとんどなくなったといってもよいでしょう。
デメリット2.選択届出や贈与税申告などの手続が必要
相続時精算課税制度は、選択するための手続が必要です。
また、特別控除を適用させるためには、基礎控除額110万円を超えた贈与を受けた年は贈与税の申告をしなければなりません。
届出(初年度に一度だけ)や申告期間は決まっており、毎年2月1日から3月15日の間に、一定の書類を添付した届出書・申告書を提出する必要があります。
デメリット3.小規模宅地等の特例が使えない
小規模宅地等の特例とは、次のケースなどで相続する土地評価額を大きく下げることができる制度です。
・相続が発生したときに亡くなった人(被相続人)と同居していた配偶者や親族が、自宅として使っていた土地と家屋を相続する場合
・被相続人が事業を行っていて、その事業を承継した子が共同で事業を営んでいた土地と建物を相続する場合
小規模宅地等の特例は大きな節税効果が見込めますが、相続時精算課税制度を利用している場合は適用を受けることができません。
該当財産を持っている場合は、慎重に検討することをおすすめします。
生前贈与の非課税枠一覧
贈与で使える非課税措置のうち、子や孫に対する生前贈与で利用できるものをピックアップして紹介します。
非課税となる金額が大きいものは厳密なルールがあることが多いため、実際に利用する場合は、諸条件をしっかりと確認することが大切です。
暦年贈与の基礎控除
暦年贈与の基礎控除では1月1日から12月31日の1年間を1区切りとして扱い、生前贈与で受け取った財産額の合計から毎年110万円を控除します。
●非課税限度額
基礎控除:年間110万円
暦年贈与の特徴や注意点
暦年贈与の利用に、特別な手続きは必要ありません。
贈与者や受贈者の条件もない一般的な贈与に自動で適用される制度です。
基礎控除の110万円を超える部分は贈与税の対象となり、課税価格に応じて8段階・10~55%の税率で税額計算を行います。
このとき、父母や祖父母など直系尊属から成人している子や孫に対する贈与のみ「特例贈与」として、低減税率が適用されることを覚えておきましょう。
また、注意すべきは、受け取った贈与の合計額に対して適用されるという点です。
贈与者1人あたりの贈与額が110万円以下でも、複数の贈与者からの合計が110万円を超える場合は贈与税がかかります。
直系尊属からの「結婚・子育て資金」の一括贈与
父母や祖父母から結婚・子育て費用として生前贈与を受けた場合に、贈与税が非課税となる制度です。
●適用要件
適用期間:2025年(令和7年)3月31日まで
贈与者:父母や祖父母(直系尊属)
受贈者:18歳以上50歳未満の子や孫(直系卑属)
●非課税限度額
結婚・子育て資金として、1000万円
「結婚・子育て資金」の一括贈与の特徴や注意点
この制度を利用するためには、予め金融機関において「結婚・子育て資金管理契約」を締結して専用口座を開設する必要があります。
この「結婚・子育て資金管理口座」を通じて行った贈与が非課税の対象です。
一括贈与という名目ですが、贈与者が複数回に分けて入金してもかまいません。
注意すべきは、以下に当てはまるケースが課税対象になるという点です。
【贈与税の課税対象】
・非課税限度額である1000万円を超えた部分
・結婚・子育て以外の用途で使われた分
・結婚・子育て資金管理契約期間が終了した場合の管理残高
【相続税の課税対象】
・契約期間中に贈与者が亡くなった場合の管理残高
直系尊属からの「教育資金」の一括贈与
父母や祖父母による教育資金を目的とした生前贈与を、非課税で受け取れます。
●適用要件
適用期間:2026年(令和8年)3月31日まで
贈与者:父母や祖父母(直系尊属)
受贈者:30歳未満の子や孫(直系卑属)
●非課税限度額
教育資金として、1500万円
「教育資金」の一括贈与における注意点
予め、金融機関において「教育資金管理契約」を締結し、開設した専用の管理口座を通じて行われた贈与が非課税の対象です。
一括贈与という名目ですが、贈与者が複数回に分けて入金してもかまいません。
ただし、下記の贈与には税金がかかります。
【贈与税の課税対象】
・非課税限度額である1500万円を超えた部分
・教育資金以外の用途で使われた分
・教育資金管理契約期間が終了した場合の管理残高
【相続税の課税対象】
・契約期間中に贈与者が亡くなった場合の管理残高
直系尊属からの「住宅取得等資金」の贈与
父母や祖父母など直系尊属からの贈与で得た資金によって、住宅を新築または増改築した場合に適用される非課税措置です。
●適用要件
適用期間:2026年(令和8年)12月31日まで
贈与者:父母や祖父母(直系尊属)
受贈者:18歳以上の子や孫(直系卑属)
●非課税限度額
住宅取得資金として、省エネ住宅:1000万円 その他の住宅:500万円
「住宅取得資金」の贈与における注意点
この制度の適用対象は、受贈者が実際に居住するための住宅に限られており、投資用住宅は対象外です。
また、贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得金の全額を充てて新築・増改築を行い、同年12月31日までに居住を開始している必要があります。
生前贈与のやり方と注意点
贈与とは、贈与者と受贈者の間で交わされる契約の一種です。
そのため、贈与者が一方的に行うことはできません。
必ず、受贈者自身、あるいは受贈者が未成年の場合は親権者の合意を得る必要があります。
口頭による合意でも法律上の問題はありません。
しかしながら、税金対策や税務調査回避の視点で考えると、契約書面を残すほうが安心です。
贈与契約書の作り方
贈与契約書に決まった様式はありませんが、原則として下記事項を漏らさず記載するようにしておきましょう。
●契約書に記載すべき事項
①贈与契約締結日
②贈与者と受贈者の氏名、押印、住所など
③贈与者と受贈者が贈与に合意しているという一文
④どのような財産を、いつ、どのように渡すのかといった贈与の詳細
贈与契約書は2通作成し、贈与者と受贈者双方が署名と押印した後、互いに保管しておきます。
生前贈与の注意点
節税対策として行われることが多い生前贈与には、次のような落とし穴に注意が必要です。
名義預金は贈与として認められない
名義預金とは、父母や祖父母が子や孫名義で開設して入金管理している口座をいいます。
名義人本人が口座を管理していると認められない場合、出金元である父母や祖父母が口座の所有者です。
そうなると、利息収益を含む口座残高に対して贈与税あるいは相続税がかかるため、納税額が高額になる可能性が高いでしょう。
特別受益の持ち戻し
一般的な相続では、相続人全員で遺産分割協議という会議を行い、財産分与を検討します。
その際に、「すでに生前贈与を受け取っているのだから」という前提で取得分から減らして割り当てることが、「特別受益の持ち戻し」です。
遺産の前渡しだという意識がなく受け取った生前贈与の場合は、納得できないというケースもあるでしょう。
遺留分侵害のおそれ
遺留分とは、遺産取得において、相続人が最低限取得できると保障された相続分のことです。
相続人に対する生前贈与が原因で、他の相続人の遺留分を侵害している場合は、「遺留分侵害額請求」に発展するおそれもあります。
遺留分侵害額請求を受けた受贈者は、その相続人の遺留分に対する不足額を金銭で支払わなければなりません。
相続財産への加算
亡くなる直前の駆け込み贈与による相続税逃れを防止するために、暦年贈与のうち下記の財産は相続財産に加算することとなっています。
①相続開始より3年以内の生前贈与:全額
②相続開始より4年~最長7年以内の生前贈与:4年間の合計額から100万円を控除した額
ただし、加算対象となる受贈者は、当該相続で遺産を受け取った相続人に限られているため、何も取得しない相続人ではない孫に対する生前贈与は通常対象外です。
生前贈与以外で、子や孫に財産を相続する方法はある?
相続人以外は財産を「相続」することができません。
相続人の範囲と順序は法律によって定められており、配偶者や子は優先的に相続人となります。
子が生存している状態で孫は相続人にはなれないため、生前贈与以外で孫に財産を残すためには、下記のような工夫が必要でしょう。
遺言書による遺贈の指定
遺言書がある相続ではその内容が優先されるため、生前に被相続人がその旨を明記した遺言書を作成しておけば、孫に財産を譲ることができます。
●死因贈与という方法
死因贈与とは、死亡という条件を満たした場合に贈与計画が発動するという契約です。
遺贈とも似ていますが、死因贈与には受贈者の合意が不可欠である点が異なります。
孫に対する贈与や死因贈与は、相続税が2割増
被相続人の死亡後に行われる遺贈や死因贈与は、贈与税ではなく相続税の対象です。
ただし、被相続人の配偶者や一親等以内の親族以外に課す相続税は、通常の2割増しとなります。
財産分与を検討する際は、そのことも考慮しましょう。
養子縁組をする
被相続人が生きているうちに、孫との養子縁組が成立した場合、その孫は相続において実子と同じ相続権を得ます。
しかしながら、養子縁組は相続以外にも孫の人生に大きな影響を与えることとなるため、慎重な検討が必要です。
生命保険を利用する
孫に現金を残したいという場合は、生命保険の死亡保険金受取人に指定するという方法があります。
このとき、保険契約者と被保険者が同一人物で受取人が孫の場合は相続税、保険契約者と被保険者が別人で受取人が孫の場合は贈与税の対象となります。
トラブルにならないために、生前贈与はプロと相談
生前贈与は節税対策や相続対策として有効な方法です。
しかしながら、適切な方法で行わないと、かえって納税額が高くなることもあるでしょう。
適切な方法は、財産内容や家族構成といった個々の事情によるため、実行する前に税務の専門家である税理士などに相談することをおすすめします。
ただし、税には種類が多く、税理士によってそれぞれ得意分野が異なるため、贈与税に強い税理士を探すことが重要です。
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