生前贈与の非課税枠は年110万円

贈与税には基礎控除として年間110万円の非課税枠があります。
基礎控除は誰もが利用できる制度ですが、利用方法を誤ると高額納税が課されるため注意が必要です。
また、相続人に対する生前贈与は、相続財産とみなされ相続税として加算される可能性もある点に気をつけましょう。

今回は、相続対策としても有効な生前贈与について、年110万円の非課税枠など贈与税がかからない方法と注意すべきケース等を解説します。

生前の節税対策で税金がかからないのは年110万円まで

生前の節税対策で税金がかからないのは年110万円まで

贈与税は、個人からの生前贈与によって財産を取得した際にかかる税金です。
このとき、財産を渡す側を贈与者、受け取る側を受贈者といいます。

贈与税の基礎控除は年110万円

贈与税は、毎年1月1日から12月31日の1年間で得た贈与財産のうち、基礎控除額を超えた分に対して課税される税金です。
贈与税の基礎控除は「年間110万円」となっており、毎年繰り返し適用を受けられます。

つまり、年間110万円以下の贈与であれば税金はかからず、申告も不要です。

基礎控除を超えた分は贈与税の課税対象

基礎控除額の110万円を超えた贈与財産には、その価格に応じて累進課税制度により10%から最大55%の贈与税がかかります。

このとき注意したい点は、受贈者にとっての合計額で考えるのが基本であるということです。
1人の贈与者からの贈与額が100万円であっても、別の贈与者から20万円の贈与をもらった場合は、合計120万円の受贈となり基礎控除額を上回った10万円分に贈与税が課されます。

年110万円の非課税枠が適用されない場合

年110万円の非課税枠が適用されない場合

基礎控除による年間110万円の非課税枠は、贈与を行う誰もが利用できるところが大きなメリットです。
しかし、贈与契約の状況などによっては、基礎控除の適用を受けられないケースもあります。

ここからは、非課税枠の適用範囲内のつもりが課税されてしまう、よくある節税に失敗するケースを見ていきましょう。

贈与者と受贈者の意思が不明確なケース

贈与には、①贈与者と受贈者、双方の合意②贈与物の引渡しの実態の両方が必要です。
財産の引渡し実態がない場合や、合意が明確でないケースは、贈与の成立が疑われます。
受贈者が把握していない贈与が発覚する時期としては、贈与者が亡くなって相続申告後のタイミングが一般的です。
そうなると、この財産は相続財産とみなされ相続税の追徴課税対象となります。

名義預金を疑われるケース

子や孫、あるいは配偶者など家族名義の口座に、贈与者が一方的に入金するというケースは多いでしょう。
贈与者にとっては、「110万円以下の贈与」をしている感覚かもしれません。

しかし、贈与者の元に名義人口座の通帳やカードがあり名義人自身に管理させていないケース、名義人が当該口座を贈与された認識がないケースなどは、贈与実態が認められない可能性があります。

贈与者の死後にこのような口座が見つかった場合は「名義預金」として贈与者の相続財産と扱われ、相続税の対象となります。
発見時点の口座残高の金額が財産価格となるため、贈与税の基礎控除は適用されません。

特定の減税・非課税制度を利用するケース

贈与には、いくつもの減税制度が用意されています。
そのうち、下記の制度には、より大きな非課税枠が設けられているため、基礎控除の適用はありません。

●直系尊属から受けた「結婚・子育て資金」一括贈与の非課税
前もって金融機関と信託契約を結んだ下記の贈与に対する非課税措置
・贈与者:父母や祖父母など(直系尊属)
・受贈者:18歳以上50歳未満の子や孫(直系卑属)
・非課税枠:結婚・子育て資金として1000万円
・適用期限:2025年(令和7年)3月31日まで

●直系尊属から受けた「教育資金」一括贈与の非課税
前もって金融機関と信託契約を結んだ下記の贈与に対する非課税措置
・贈与者:父母や祖父母など(直系尊属)
・受贈者:30歳未満の子や孫(直系卑属)
・非課税枠:教育資金として1000万円
・適用期限:2026年(令和8年)3月31日まで

●直系尊属から受けた「住宅取得資金」贈与の非課税
実際に居住を目的とした住宅取得に関する下記の贈与に対する非課税措置
・贈与者:父母や祖父母など(直系尊属)
・受贈者:18歳以上の子や孫(直系卑属)
・非課税枠:住宅取得金として省エネ住宅の場合1000万円、その他住宅の場合500万円
・適用期限:2026年(令和8年)12月31日まで

●特定障がい者に対する贈与の非課税
特定障がい者の生活費などに充てるため、一定の信託契約に基づいた財産信託があった場合の非課税
・受贈者:特定障がい者(①特別障がい者②特別障がい者以外の障がい者のうち精神障がいのある方)
・非課税枠:①6000万円②3000万円
用意された非課税枠を超えた分、設定された使途以外の目的で使用された額などは、贈与税の対象です。

贈与者が亡くなり相続が始まったケース

相続または遺贈によって財産を取得した人が、その相続の被相続人(亡くなった人)から生前贈与を受けていた場合、一定の期間内の贈与財産が相続財産に加算されます。
このとき、贈与時には基礎控除範囲内で納税や申告を必要としていなかった部分についても、相続財産加算の対象となる点に注意が必要です。

●相続財産加算の対象となる贈与財産
・贈与者:相続おける被相続人
・受贈者:相続で財産を取得した相続人
・加算対象財産:下記①②の生前贈与財産合計額
①相続開始3年以内:贈与財産全額-贈与時の既納贈与税額
②相続開始4~7年以内:贈与財産合計額-100万円-贈与時の既納贈与税額

また、2023年(令和5年)までは、相続財産への加算期間を3年以内としていましたが、2024年(令和6年)における税制の改正によって令和6年1月1日以降の贈与分については大幅に延長されました。
延長期間については、令和6年から毎年段階的に導入され、合計額から100万円の控除が設けられています。

相続人の範囲と順序

相続財産への加算は、相続によって財産を受け取った人が対象です。
そのため、相続人以外には当てはまりません。

相続人とは、民法によってその範囲と順位が下記の通りに定められています。

●常に:被相続人の配偶者
被相続人の配偶者は、常に相続人です。
下記に該当する相続人は、配偶者と一緒に相続人となります。
ただし、この場合の配偶者とは正式に婚姻関係にある相手で、事実婚パートナーや内縁関係の人は含まれません。

●第1順位:被相続人の子ども
被相続人に子どもがいる場合は、優先的に相続人となります。

●第2順位:被相続人の直系尊属
第1順位の該当者がいない場合に相続人となるのは、相続開始時に存命している直系尊属(親や祖父母)のうち、最も被相続人に近い世代です。

●第3順位:被相続人の兄弟姉妹
第1順位、第2順位共に該当者がいない場合には、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。

代襲相続が起こった場合の孫に注意

通常、孫は相続人に該当しません。
そのため、節税効果を高めるために、子ではなく孫に生前贈与を行うというケースもあるでしょう。

しかし、贈与者の相続が開始する前に子が亡くなると、その直系卑属である孫が相続の権利を引き継ぎ、代襲相続人となります。
代襲相続人となる孫が受け取った生前贈与財産は、相続財産加算の対象です。

どのような順番でいつ相続が起こるのかは誰にもわかりませんので、覚えておくとよいでしょう。

年110万円の贈与をするときに注意すること

年110万円の贈与をするときに注意すること

上記ケースを踏まえ、年間110万円の基礎控除を生かすための注意点について説明します。

契約書を作成する

贈与とは、贈与者と受贈者の合意の上で成立する契約行為です。
合意の意思確認について、法律上は口頭によるものでも成立はします。
しかし、贈与の不成立リスクや税務調査リスクを回避するためには、書面の契約書を作成しておくと安心です。

贈与契約書の作り方

贈与契約書に法で定められた様式や書き方はなく、手書きでもパソコン等で作成したものでもかまわないとされていますが、氏名欄には双方が自署しておくことが必要です。
長期間保管する可能性があることを考慮した紙とインクを選びましょう。
記載が必要な項目は下記の通りです。

・いつ:贈与契約日
・誰が:贈与者の氏名、住所、印
・誰に:受贈者の氏名、住所、印
・何を:贈与財産の詳細
・どのように:受け渡し方法

契約書は2通作成し、贈与者と受贈者の両者が保管しておきます。

契約書が役立つ場面

双方自署による契約書があるということは双方の認識を証明することになり、意思不明確や名義預金の疑いを避けることもできるでしょう。

贈与税の計算方法2つの制度で違い

贈与税の計算方法2つの制度で違い

贈与税の課税制度は、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類です。
どちらも基礎控除の適用を受けられますが、基礎控除額を上回った部分の扱いが異なることを知っておきましょう。

暦年課税制度の概要

暦年課税は、利用するために特別な手続きを必要としない「一般的な課税方法」です。
相続時精算課税制度の選択や他の減税・非課税措置の申請をしなかった場合に適用されます。

●適用要件
・贈与者、受贈者:誰でも可

●贈与税の扱い
・非課税制度:①基礎控除 年間110万円
・非課税枠を超えた分:10%から最大55%の税率で贈与税課税対象

●相続税の扱い
相続の発生より最長7年以内の生前贈与財産が、相続財産に加算され相続税の課税対象となる

相続時精算課税制度の概要

相続時精算課税制度とは、名称が示す通り「相続時に精算をする」課税制度です。
この制度を利用する場合は、贈与があった翌年2月1日から3月15日までの申告期限中に、初回一度だけ税務署に制度の選択を届け出る必要があります。

この制度は、贈与者ごとに選択可能です。
届出書を提出すると、選択した贈与者は「特定贈与者」となり、選択年以降の贈与すべてに相続時精算課税制度が適用されます。
途中で暦年課税制度に戻ることはできません。

●適用要件
・贈与者:1月1日時点で60歳以上の父母、または祖父母
・受贈者:1月1日時点で18歳以上の子、または孫

●贈与税の扱い
・非課税制度:①基礎控除 年間110万円②特別控除:累計2500万円
・非課税枠を超えた分:一律税率20%で贈与税課税対象

●相続税の扱い
特定贈与者が死亡した場合は、年110万円を超える精算課税贈与適用財産を遺産額に加算して相続財産とする
※一律20%の税率で納めた贈与税は相続税と相殺され、余りは還付される

基礎控除創設により使い勝手がよくなった相続時精算課税制度

実は、相続時精算課税制度における基礎控除110万円の適用は、2024年(令和6年)の税制改正によって新設されました。
それまでは、特別控除のみだったため、将来値上りする財産を先渡しできることが節税につながっていました。
しかし、特別控除とは別に年間110万円の基礎控除が適用されるようになったのです。

これにより、毎年の贈与額を工夫することなどで、より効果的な財産分与と節税ができるようになりました。

生前贈与以外の節税対策をご紹介

生前贈与以外の節税対策をご紹介

財産を所有する個人が、その財産を誰かに渡すとき、必ず何らかの税金がかかります。
贈与者が生きているうちは贈与税、亡くなった後ならば相続税の対象です。

ここまでに紹介した通り、生前贈与にはさまざまな減税・非課税措置が用意されているため、大きな節税効果が期待できます。
しかし、個々の事情により生前贈与以外の方法を必要とするケースもあるでしょう。
そこで、生前贈与以外の節税対策をピックアップして紹介します。

墓地や仏具、神棚などを購入

墓地や墓石、仏壇や仏具、神棚など日常的に礼拝を行うものには、相続税がかかりません。
後に必要となるならば、先にまとめて購入し相続財産を減らすというのも1つの手です。

しかし、骨董的価値のあるものや、社会通念上の適正価格を大きく超えるものなどは、課税対象となる可能性があるため注意しましょう。

生命保険の活用

生命保険の死亡保険金には、「500万円×相続人数」という非課税枠が設けられています。
実際の受取人が配偶者1人だとしても、配偶者と子ども2人が相続人の場合は500万円×3人=1500万円までの死亡保険金に税金がかかりません。

相続する土地の評価額を下げる

一般的に土地や家屋などの不動産は、財産価値が高いため税金も高くなる傾向にあります。
そこで、相続財産としての評価額を下げることが、節税対策として効果的です。
不動産評価を下げるためには、次のような方法があります。

●土地評価を工夫して下げる
国税局が毎年発表する「路線価」をベースにしつつも、土地個々の減価要因を見つけ出し、減額することが認められています。

●小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例を活用すると、宅地等の評価額を最大80%も減額することが可能です。
ただし、厳密な適用要件があり、主に同居相続人が自宅不動産を相続するケースや、相続人が被相続人の事業を土地と共に承継する場合などに適用されます。

●貸家建付地として活用
貸家建付地とは、賃貸アパートやマンションを建てて第三者に貸している土地のことです。
収益性があるため価値が高いようにも思えますが、自由に処分できないことから評価額は下がります。
本来の土地の評価額から、立地に応じた借地権割合、一律30%の借家権などが考慮されるため、大きな減額効果が見込めるでしょう。但、建築費を賃料で回収できない対策倒れになるので注意が必要です。

生前贈与を活用して早めに節税対策を

生前贈与を活用して早めに節税対策を

生前贈与を活用した節税対策を効果的に実施するポイントは、なるべく早く始めることです。
加えて、次の3つを意識すると、より高い効果を得られるでしょう。

多くの人に贈与する

一度に多額の贈与をするのではなく、基礎控除範囲内の額を複数の人に渡すことで、より大きな節税効果を得やすくなります。
例えば、孫が3人いる場合は、1人あたり110万円の生前贈与を10年続けると3300万円の財産を移転できるのです。

収益性のある財産を先に贈与する

収益性が高く借金のない賃貸建物を生前贈与した場合、贈与税の対象は贈与時点の建物評価額のみです。
又、高配当の上場株式を贈与した場合は、株式評価のみで贈与した後の配当収入は受贈者のものになります。

この様に、将来の収益は、受贈者の収入となるため、贈与税・相続税がかかりません。
贈与が早ければ早いほど、収益性物件の恩恵をより多く得られるというわけです。

相続財産への加算を考慮する

暦年課税で贈与する場合、相続開始より最長7年以内の贈与財産が相続財産に加算されます。
相続の始まるタイミングは誰にもわかりませんが、なるべく早く贈与を始めておくことで、この対象期間に入る贈与額を減らすことが可能です。

生前贈与についての相談は相続ステーションへ

生前贈与についての相談は相続ステーションへ

生前贈与は、生きている間に自分の希望する相手に財産を渡し、税を軽減する方法として有効です。
生前贈与を実行すること自体は簡単なため、ご自身だけで行うという方は少なくないでしょう。
しかしながら、贈与と関連付いた税金問題は複雑です。
万が一やり方を間違えると、受贈者に高額納税という負担をかけてしまう可能性もあります。
上手な節税対策を行い最大限の効果を発揮するためには、お金と税務の専門家である税理士に相談すると安心です。

贈与や相続に強い税理士は、高度な専門知識だけでなく、積み上げた経験によって培ったノウハウをも備えています。
そのため、現時点の生前贈与から次世代の財産承継まで、一貫した節税対策をとることができるでしょう。
また、税務署に対して意見書の添付や申告内容の説明といった権利を持っているため、もしものときでも安心して対応を任せられます。

ただし、税理士はそれぞれに得意分野が異なるため、贈与税や相続対策に強い税理士を探すことが重要です。
最近では多くの税理士法人がサイトやsnsを運営しており、事例や実績、料金表などを掲載しています。
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