相続人の範囲と相続順位について解説
身近な人が亡くなると、遺産相続が始まります。
相続する権利を持つ相続人は民法によって優先順位が定められており、親族なら誰もが相続人に該当するわけではありません。
また、相続人ごとの相続割合(法定相続分)も、誰が相続人なのかによって異なるため注意が必要です。
当ページでは、知っておくべき知識と必要な手続きを踏まえて、相続人の範囲と相続順位について詳しく解説します。
法定相続人の順位はどのように決まる?
親族に相続が発生したときに、「誰が相続人になるのか」「自分はもらえるのか」ということが気になる人は多いでしょう。
また、自分の死後に相続争いが起きないかどうか不安だという人もいるのではないでしょうか。
映画や小説などフィクションの中では、相続権をめぐって争いが起こることも少なくありません。
しかし、実際の相続では相続人の範囲と優先順位は法律で決まっています。
法定相続人の優先順位は「子ども→親→兄弟姉妹」で、配偶者は「常に」
相続人とは、亡くなった人(被相続人)の財産に対して相続する権利を持つ人のことを指す言葉です。
誰が相続人に該当するかは法律によって定められているため、「法定相続人」ともいいます。
被相続人が生存している間は推定相続人と呼ばれ、亡くなった時点で確定するわけです。
その優先順位は下記の通りになります。
配偶者は常に相続人
死亡した人の配偶者(妻・夫)は、常に法定相続人です。
このときの配偶者とは戸籍上の婚姻関係を結んだ相手を指しており、内縁関係や事実婚パートナーは相続人になれません。
一方で、たとえ離婚に向けて別居中であっても、法律上の夫婦関係が続いている相手は最優先で相続人となる点に注意が必要です。
配偶者以外の相続人は、下記の順序で配偶者とともに相続人となります。
先の順位に該当する人が1人でもいる場合は、次順位の人に相続権はありません。
第1順位は、子ども
被相続人に子どもがいる場合は、「配偶者と子ども」という組み合わせで相続人となります。
子どもが複数いる場合は、すべての子どもに相続権が生じ、「長男は相続人だが、次男は違う」というようなことはありません。
なお、下記に挙げるケースでは、法律上の親子関係が成立しているかどうかによって扱いが異なります。
●配偶者の連れ子
被相続人との養子縁組が済んでいる場合は、実子の有無にかかわらず法定相続人です。
養子縁組が済んでいない場合は法律上の親子関係が認められないため、たとえ同居して生計を一にしていても相続人にはなれません。
●非嫡出子・婚外子
非嫡出子は、次の方法によって法律上の親子関係が成立していれば、相続人となります。
・被相続人が父親の場合:認知の手続き
・被相続人が母親の場合:分娩の事実
●分籍・戸籍の独立
子どもが成長し、結婚や何らかの事情によって親の戸籍から抜けていることもあるでしょう。
この場合、戸籍は別々になっても親子関係などに何ら変更はないため、相続する権利にも影響はありません。
通常通り、子どもとして相続人となります。
相続より前に亡くなっている子の代襲相続
被相続人の相続開始時にすでに死亡している子どもがいて、その子どもに子どもがいる場合は代襲相続が発生します。
代襲相続とは、本来の相続人の直系卑属(子や孫)が、相続権を承継することです。
このとき、本来の相続人を被代襲者、新たな相続人を代襲相続人といいます。
被代襲者に子どもが複数いる場合は全員が代襲相続人となるため、相続人の数が増える点に注意しましょう。
第2順位は、被相続人の父母
代襲相続人を含め、第1順位に該当する人が誰もいない場合は、次順位の人が相続人となります。
被相続人に配偶者がいて子どもがいない場合、相続人の組み合わせは「配偶者と、被相続人の父母」です。
配偶者の父母(姻族)は含みません。
配偶者がいない場合には、被相続人の父母だけが相続人となります。
どのような場合でも、「子どもと父母」「父母と兄弟姉妹」のように優先順位が異なる人が同時に相続人になることはありません。
被相続人の父母2人ともがすでに亡くなっている場合は、祖父母、曾祖父母の順で繰り上がります。
両親のうちどちらかが生存している場合は、祖父母に相続権がいくことはありません。
被相続人に、普通養子縁組で結ばれた養父母がいる場合、実父母と養父母が同順位で相続人となります。
特別養子縁組では実親子関係が終了するため、相続人となるのは養父母のみです。
第3順位は、被相続人の兄弟姉妹
第1第2順位の該当者が1人もいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が相続権を得ます。
被相続人に配偶者がいるときの相続人は「配偶者と兄弟姉妹」、いないときは「兄弟姉妹のみ」です。
被相続人にとって法律上の兄弟姉妹関係があれば同順位で相続人となり、親の実子か養子かは問われません。
兄弟姉妹のうち、被相続人の相続開始以前に死亡した人がいる場合は、その子ども(被相続人の甥姪)が代襲相続人となります。
第1順位の代襲相続は被相続人のひ孫まで含まれますが、第3順位の代襲相続は一代限りです。
甥姪が亡くなっている場合、その直系卑属が生存していたとしても相続権は受け継がれません。
遺言があると、順位が変わるケースもある
遺言書の有無は、相続における遺産分割を大きく左右します。
遺言書がないケースでは原則として法定相続人だけで遺産分割を行いますが、遺言書があるケースではその内容によって法定相続人以外にも財産分与をする可能性があるからです。
そのため、相続人は相続開始後すぐ、遺産分割を始める前に遺言書があるかどうかを確認しなければなりません。
法定相続人の順位通りにいかない可能性がある3つのケース
遺言書は、被相続人の意思を伝える最後の手段です。
被相続人が遺言書を作成していた場合は、そこに記載された思いに従って遺産分割を進めることになります。
ただし、遺言書で指定できる事柄には一定のルールがあり、「相続順位を変える」と記載しても効果はありません。
では、どのような記載があると相続順位に影響があるのでしょうか。
遺言書による「遺贈」の指定
遺言書では、被相続人の意思で財産の分与先や内容を指定することができます。
これを「遺贈」といい、遺贈の相手は法定相続人だけでなく、相続人以外の親族や第三者を対象とすることも可能です。
たとえば、老いた母親が心配だというときは、「財産の一部を母親に遺贈する」旨を遺言書に記載しておくことで、相続とは別に遺贈をすることができます。
●上位の相続人がいても遺産取得できるケース
つまり、相続人が配偶者と子ども、遺贈先が母親だというケースでは、第1順位の子どもと第2順位の母親が同時に遺産を取得することが可能です。
兄弟姉妹や甥・姪に遺贈指定があるケースも同様に、上位の相続人がいても遺贈を受けることができます。
遺言書による「認知」の実行
遺言書では、非嫡出子の認知を行うことも可能です。
これを「遺言認知」といい、認知された子どもは第1順位の法定相続人として遺産相続の権利を得ます。
生前には認知できなかった子どもに対して有効な手段ですが、多くの場合トラブルのもととなるでしょう。
●第1順位の人数が増えるケース
法律上の配偶者との間に生まれた子ども(嫡出子)がいる場合は、同順位の相続人が1人増えるということになります。
●相続順位が覆されるケース
認知された子ども以外に第1順位の該当者がいないケースでは、遺言認知が成立するまでは第2順位の父母あるいは第3順位の兄弟姉妹が相続人だったはずです。
それが、遺言認知によって優先順位の高い相続人が現れ、相続権が奪われてしまったということになるでしょう。
遺言認知を受けて認知届を提出する際は、認知する子どもが成人している場合は本人の承諾、胎児の場合は母親の承諾が必要です。
また、認知にかかる手続きは遺言執行者が行うため、遺言書作成時に遺言執行者を指定しておきましょう。
遺言書による「廃除」の指定と解除
廃除とは、被相続人に対して虐待や侮辱を加えた者などがいた場合、被相続人の意思によって相続権を剥奪することです。
廃除にかかる手続きは、生前に家庭裁判所で行うほか、遺言書でも指定できます。
●代襲相続が発生するケース
廃除された相続人は相続権を失い、被相続人の遺産を一切取得できません。
しかし、代襲相続が適用されるため、廃除された人に子どもや孫がいる場合は代襲相続人として遺産を取得します。
この場合、相続順位に影響はありません。
●廃除によって相続順位が変わるケース
廃除された相続人に代襲相続人がおらず、他に同順位の相続人もいない場合、その相続権は次の順位に繰り下がります。
たとえば、独身のひとり息子の相続権が廃除されたならば、第2順位の父母が相続人になるというわけです。
●廃除の取消によって相続順位が変わるケース
相続人の廃除は、生前の手続きあるいは遺言書によって取り消すことができます。
たとえば、生前に廃除の手続きをしていた相続人に対して、遺言による「廃除の取消」を行うことで相続権が復活するということです。
「子どもの相続権は剥奪されているから、第2順位の父母が相続するだろう」と思っていたら、遺言書での廃除取消により、結局子どもが相続人になるというケースが考えられます。
それぞれの法定相続分の割合はどのくらい?
これまでは相続の権利についてお話してきましたが、ここからは「どのくらい受け取れるのか」ということについて説明しましょう。
法定相続分とは、遺産の相続割合を指す言葉です。
法定相続人と同じように、法律によって決められた相続割合だということから「法定相続分」と呼ばれています。
民法によって定められた相続割合「法定相続分」
法定相続分は相続人の組み合わせによって異なり、具体的な割合は下記の通りです。
相続人の組み合わせ | 配偶者の遺留分 | その他の相続人の遺留分 |
配偶者のみ | 全部 | - |
配偶者+子ども | 2分の1 | 子ども:2分の1 |
配偶者+父母 | 3分の2 | 父母:3分の1 |
配偶者+兄弟姉妹 | 4分の3 | 兄弟姉妹:4分の1 |
配偶者なし | - | 該当順位の相続人:全部 |
同順位の相続人が複数いる場合は、全員で均分します。
このとき、同順位の相続人に差はありません。
たとえば、子どもが3人いる場合はそれぞれ6分の1ずつ取得して、子ども全員で2分の1になるように分割します。
出生順や性別、実子養子、嫡出子非嫡出子などは、法定相続分に影響を与えないということです。
ただし、法定相続分は必ず守らなければならないわけではありません。
遺言書と法定相続分
遺言書では、法定相続分とは異なる相続割合を指定することができます。
「事業を継ぐ長子に事業資産を」「献身的な看護をしてくれた末子に預貯金の半分を」など、偏った指定が記載されていたとしても、原則として遺言書の内容に従わなければなりません。
遺言書では相続人以外にも財産分与することができるため、法定相続分以外の割合を指定されていることのほうが多いでしょう。
遺産分割協議と法定相続分
遺言書のないケースでは、相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺産分割協議は「誰がどのくらい遺産を取得するか」を話し合う場で、決着には全員の合意が必要です。
逆をいえば、全員の合意を得られるのならば、法定相続分に従わなくてもかまいません。
相続人の権利「遺留分」に注意
このように、遺言書でも遺産分割協議でも、必ずしも法定相続分に従う必要はないことがわかりました。
しかし、すべてを自由にしてしまえば、相続人の相続する権利が侵害されることもあるでしょう。
そのため、相続人には法定相続分に従わない場合でも、最低限取得できる割合が決められています。
その割合を「遺留分」といい、具体的な割合は下記の通りです。
相続人の組み合わせ | 配偶者の遺留分 | その他の相続人の遺留分 |
配偶者のみ | 2分の1 | - |
配偶者+子ども | 4分の1 | 子ども:4分の1 |
配偶者+父母 | 6分の2 | 父母:6分の1 |
配偶者+兄弟姉妹 | 2分の1 | 兄弟姉妹:なし |
子どものみ | - | 子ども:2分の1 |
父母のみ | - | 父母:3分の1 |
兄弟姉妹のみ | - | 兄弟姉妹:なし |
たとえば、遺産額が1億円で相続人が配偶者と子どもの場合、法定相続分による相続額はそれぞれ5000万円、遺留分はそれぞれ2500万円となります。
ただし、兄弟姉妹には遺留分についての権利がありません。
遺留分侵害額の請求
遺言書の指定によって取得した遺産額が遺留分を下回っていた場合、遺留分の権利を持つ相続人は不足分を請求することができます。
遺留分侵害額請求を受けた人は、その額を金銭によって支払わなければなりません。
被相続人が相続人以外に財産を渡したいと思ったことが、かえって受贈者に迷惑をかけることになるかもしれない点に注意が必要です。
相続人を確定するにあたり知っておくべき注意点
遺産相続をスムーズに進めるためには、誰が相続人なのかを確定しなければなりません。
家族構成によっては、同順位の相続人が多いケースもあるでしょう。
あとから人数が変わると面倒なことになるため、下記の点に注意しながらできるだけ早く調査しておきましょう。
相続人の調べ方
相続人を調査するためには、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を取り寄せます。
転居が多い場合などは、各地の市区町村役所に問い合わせることになるでしょう。
実際に行くことが難しい場所などは、郵送での交付を依頼することも可能です。
戸籍情報は相続手続きでたびたび必要になります。
まとめて取得しておくか、法務局で法定相続情報一覧図を作成しておくと便利です。
相続の放棄
相続人の権利は、自ら放棄することが可能です。
相続を放棄した相続人は最初からいなかったことになり、その相続権は消滅します。
死亡や廃除と異なり、相続放棄をした場合の相続権は直系卑属に代襲相続されません。
他にも同順位の相続人がいる場合は、放棄した人の相続分が同順位の人に再配分され、同順位の相続人がいない場合は、次順位の人が相続人となります。
相続放棄は手続きが必要
相続放棄をする場合は、相続開始から3ヵ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申述をしなければなりません。
単に「相続財産はいらない」と伝えたり、遺産を受け取らなかったりするだけでは、相続の放棄にはならない点に注意しましょう。
また、相続放棄をした人がいるかどうかは家庭裁判所に照会することでわかります。
あとから知って混乱しないためにも、相続人が変動する可能性を1つずつ確認しておくと安心です。
相続税申告の期限
遺産相続は、相続人が被相続人の死亡を知ったときから始まり、10ヵ月後には相続税の申告と納税期限がやってきます。
そのため、相続人は短い期間で遺言書の有無を確認し、相続財産の調査と評価額の査定、相続人の調査、遺産分割、各自の相続税計算などを行い奔走することになります。
予め知識を得てシミュレーションしておくことで、焦らずに対応できるということも多いでしょう。
段取りだけでも知っておくと安心です。
相続手続き・不明点はプロにお任せ
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