相続税の土地評価額について解説
土地や家屋などの不動産を資産として相続する場合、その評価方法によって評価額が大きく異なるので注意が必要です。
立地条件や使用目的などによっては、減額のための補正が必要なケースもあるでしょう。
相続税額は遺産の価格によってかかる税額が決まるため、税金の納め過ぎを防ぐためにも適正な評価が大切です。
本記事では、不動産路線価による評価額計算方法や減額方法について、減額の実例も交えて詳しく解説します。
土地の相続税評価額とは?
相続が発生すると、原則として、亡くなった人(被相続人)の財産総額をもとに相続人それぞれが納める相続税額を計算することになります。
相続税を適正に納めるためには、遺産の価値を正しく見積もることが重要です。
一定のルールに従って遺産の価値を決めることを、評価といいます。
遺産の評価は相続開始の時点における時価で行うため、相続人は被相続人の財産を必ずすべて洗い出し、価値を調べたり計算したりしなければなりません。
現金や預貯金といった資産の評価は簡単ですが、なかには価値を計ることが難しい財産もあるでしょう。
土地や家屋といった不動産も、評価が難しい財産の1つです。
特に、土地の評価は地目や敷地の広さだけでなく、形状や周辺環境といった立地条件、使用目的や相続人によっても評価が異なります。
しかし、前もって土地の評価方法や流れを知っておくことで、考慮すべきポイントがわかり、税金の納め過ぎを防止することができるでしょう。
国税庁が定める2種類の土地評価方法
土地の評価方法には、大きくわけて2つの方法があります。
路線価方式
路線価とは、毎年1月の公示価格を元に路線(道路)に接する地域の一般的な地形・広さの土地の1平方メートルあたりの価格で、概ね公示価格の80%を目途に国税局が設定しています。
路線価が定められている地域の土地は、次の計算式で評価します。
●路線価方式
土地の価額=路線価×補正率×面積
全国の路線価は国税庁のホームページで公表されているため、まずは自分の相続する土地がどの路線に接しているかを調べましょう。
また、毎年7月1日に新しい情報が発表されます。
相続前に確認しておきたいという方は、価格が変わっていないか最近のものをチェックしておくと安心です。
倍率方式
路線価は、すべての路線に対して定められているわけではありません。
国税庁が定める路線価のない地域では、その土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価額を算出します。
●倍率方式
土地の価額=固定資産税評価額×倍率
固定資産税評価額は、毎年4月頃に土地がある市町村から送られてくる「固定資産税額納税通知書」に記載されています。
通知書が見当たらない場合は、市町村の役所で「固定資産課税台帳」(名寄帳)の閲覧や「固定資産評価証明書」の発行申請を行うと良いでしょう。
評価倍率表については、路線価と同様に国税庁のホームページに掲載されているので、そちらを活用します。
土地評価は、ここからが本番
土地の評価は、ここで終わりではありません。
土地の価値は、面積のみに応じて決まるものではないからです。
たとえば、同じ路線に面する2つの土地で、1つが15メートル四方の225㎡の正方形、もう1つが5メートル×45メートルの細い225㎡の長方形という規模だったとしましょう。
接する路線も面積も同じですから、計算で求めることのできる価値は同等ということになります。
しかし、使い勝手には大きな差がありそうです。
土地の評価を行う際は、この「使い勝手」についても適正に評価して反映しなければいけません。
利用状況や特徴・減額要素によって相続税の評価が変わる
それでは、使い勝手を評価するための手段について説明します。
土地の利用状況も価格変動の要素ですが、先に補正率についてお話しましょう。
補正率
補正率とは、形状や、何面が道に面しているか、地面が傾斜しているかなど、土地それぞれの特徴を考慮する際に用いる割合のことです。
使い勝手の悪い土地は補正率を乗じることで減額につながり評価額が低くなりますが、好立地の場合は加算されるケースもあります。
どのような土地だと調整が必要となるのでしょうか。
主な補正
一般に間口と奥行きのバランスが悪い土地や、L字や多角形などいびつな土地は、正方形の土地と比べて建物を建てにくそうです。
その理由ごとに、補正率を適用させていきましょう。
補正の名称 | 内容 |
奥行価格補正 | 道路からの奥行距離が長すぎる・短すぎる |
奥行長大補正 | 間口に対し、奥行距離が2倍以上 |
不整形地補正 | 宅地の形がいびつ |
間口狭小補正 | 間口が狭い |
がけ地補正 | 宅地として使えない斜面を含む |
土地の形に対する主な補正は上記の表の通りです。
好立地の加算
使い勝手の悪い土地がある一方で、使い勝手の良い土地も存在します。
たとえば、角地のように2方向を道路で囲まれた土地は、陽当たりや風通しがよく隣家の影響を受けにくいなど一般に使い勝手が良いため、加算対象です。
補正の名称 | 内容 |
側方路線影響加算 | 角地・準角地 |
二方路線影響加算 | 正面だけでなく裏面も道路に接している |
土地の評価を左右する利用状況
土地の評価額は、その立地や形状だけでなく、用途や利用状況に応じても変わります。
どのような条件下だと評価額が変わるのか、種類ごとに確認しておきましょう。
借地
地主に借りている土地に自分で家屋を建てた場合、建物の所有者とは別に土地には地主という所有者がいるため、所有権を持つことはできません。
被相続人が土地について持つ権利は、借地権です。
家屋については、自分で建てて所有しているので所有権があるということになります。
借地権も、相続財産の1つです。
ただし、使用方法に制限があるといった事情を考慮して、借地権割合という減額処置が適用されます。
●借地の評価
借地権の価額=土地の評価額×借地権割合
まず、路線価や倍率方式による土地の評価額を算出しましょう。
必要な補正を終えた土地の価格に、借地権割合を乗じると借地としての評価額を求めることができるというわけです。
借地権割合は、国税庁ホームページの路線価ページに掲載されています。
又、被相続人が借地人に土地を貸している場合は土地の評価から上記借地権の価額を控除して評価額を算出します。
貸家建付地
貸家建付地とは、被相続人がマンション・アパート・ビル・工場・倉庫といった家屋などを建て、賃貸に出している場合に使う言葉です。
この時も、まず自用地としての土地価格を計算してから、次の式で貸家建付地として評価します。
●貸家建付地の評価
貸家建付地の価額=土地の評価額-土地の評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合
賃貸割合とは、相続税を課税する時点でどのくらいの部屋を貸しているか、埋まっているかという割合です。
満室を100%として、空き室が増えるほど減額率は低くなります。
この時の注意点は、賃貸している部屋の戸数で数えるのではなく、専有部分の床面積で計算する点です。
●賃貸割合
賃貸割合=課税時期に賃貸されている専有部分の床面積/家屋の専有部分の床面積合計
借地権割合と借家権割合については、国税庁ホームページ「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認可能です。
私道
相続した土地の一部が私道だった場合は、どのような道かによって評価方法が異なります。
●不特定多数が利用する私道
誰でもが通り抜け利用している私道は、公共の用に供するもの同じです。
そのため、相続税評価の対象外として土地面積から取り除きましょう。
相続財産=土地面積-私道面積
●袋小路で特定の者が使う私道
袋小路のように通り抜けできず特定の人が利用する道は、相続財産に含まれます。
その道の価額は、通常の手順で算出した宅地評価額の30%相当です。
袋小路の私道価額=土地の評価額×30%
●隣接宅地の通路として専用利用される私道
隣接する宅地へ続く道として専用に利用されている私道は、私道ではなくその隣接地に含まれる部分として評価します。
専用利用される私道の価額=路線価×奥行価格補正率×間口狭小補正率×奥行長大補正率×地積×地積×30% 又は借地権割合を控除
小規模宅地等の特例
ここまでは、土地の形状や利用状況による減額について紹介してきました。
最後に、相続人によって評価額を減額できる方法を案内します。
小規模宅地等の特例とは、下記の適用要件を満たす場合に評価額を減額するというものです。
●適用要件
①被相続人の住居を配偶者や同居親族が相続した場合
・相続直前までその住居に住んでいること
・相続開始も申告期限(10カ月後)まで居住し続けていること
②被相続人の事業を親族が継承した場合
・相続する土地が、被相続人事業に供されていること
・その被相続人事業を相続税申告期限までに承継していること
・その土地を、相続税の申告期限まで保有し続けていること
●減額割合と限度面積
・適用要件を満たす場合、財産評価額を下記の割合で減額する
①被相続人の住居:80%(最大330平方メートルまで)
②被相続人の事業所:80%(最大400平方メートルまで)
③被相続人の貸付事業所:50%(最大200平方メートルまで)
条件がありますが減額率が大きいので、見逃さないようにしましょう。
相続税における土地評価の計算シミュレーション
さまざまな減額方法がわかったところで、土地評価額の計算方法をシミュレーションしてみましょう。
具体例による土地評価シミュレーション
次の相続事例をもとに、ここまでにお伝えしたステップごとに計算を行っていきます。
【例】 被相続人:父 相続人:配偶者(母)、自分(長男)、次男、長女 相続財産:自宅の土地(面積:10メートル×20メートル=200平方メートル)、自宅家屋、その他 |
①土地の価額=路線価×面積×補正率
路線価が定められている地域で、路線価は10万円と記載されていました。
また、間口10メートルに対して奥行が2倍の20メートルあるため、奥行長大補正を適用させます。
・路線価×面積×補正率(奥行長大補正[普通住宅地:0.98])=土地の評価額
・10万円×200平方メートル×0.98=1960万円
②利用方法を調べる
借りた土地に、父である被相続人が家を建てた「借地」で、借地権割合は70%です。
・土地の評価額×借地権割合=借地の評価額
・1960万円×70%=1372万円
③小規模宅地等の特例を適用させる
両親と同居していた長男が土地と家屋を相続し、家族とともに居住し続けています。
・被相続人の住居に対する減額割合:80%(330㎡まで)
・1372万円×(100%ー80%)=274.4万円
相続税評価の減額は実際に価値が下がるわけではない
「路線価×面積」では2000万円だった土地の価格が、いくつかの減額措置で随分と下がりました。
しかし、なかには、土地の評価額が下がると売却の際に困ると考える人もいるのではないでしょうか。
これは、あくまでも相続税を計算する際に用いる数値で、実際の売買価格とは異なります。
2000万円で売れるはずの土地が1000万円になってしまうわけではありません。
実は、不動産にはさまざまな評価方法があります。
それぞれに目的があり、それぞれに価格が異なるのです。
次項で、詳しくお話します。
土地の評価額を減額するには不動産に関連する知識と徹底した調査が必要
遺産相続で土地を評価する際は、十分な知識を持ったプロに依頼しましょう。
なぜなら、不動産の価格は評価方法によって異なり、価格の違いが相続税額を非常に大きく左右するからです。
土地の価格は、評価方法によってまったく違う
先ほどからご紹介している通り、相続税の土地評価は「路線価」を使って行います。
しかし、不動産の評価方法は1種類ではありません。
不動産価格は、同じ物件でも評価方法によって価値が異なるため、「一物五価」とも呼ばれています。
●不動産評価方法と目的
・実勢価格:実際に取引が成立した価格
・公示価格:公共事業用地を取得する際の基準価格(都市計画区域中心)
・基準地価:公共事業用地を取得する際の基準価格(都市計画区域外や林地も含む)
・固定資産税評価額:各市町村に納める固定資産税や都市計画税などの算定基準となる価格
・相続税路線価:路線ごとに定められた相続税や贈与税の算定基準
たとえば、売買の際には、売り急ぎや縁故などさまざまな要因が絡むため、同じ物件でも取引ごとに金額が異なります。
不動産の価格がいくらかなど調べればすぐにわかると思っていても、参考にした評価方法によっては見当違いな高値をつけてしまいかねません。
「相続税の土地評価」ができるプロに任せるのが、非常におすすめです。
税務調査にも注意
相続税の申告は、書類を提出してから5年以内は税務署から連絡が来る可能性があります。
根拠なく補正率を適用させたり、減額をすれば、税務調査や追徴課税になるかもしれません。
図面の用意や根拠法令の提示も必要です。
土地評価の違いが実際に節税につながったケースを解説
では、土地の評価で相続税の節約につながった事例を紹介しましょう。
事例①形の良くない土地
道路に対して斜めに接するような細長い菱形上の土地における評価減額事例です。
単純に「四角形」として評価した場合と、「使いにくい形の土地」として評価した場合の差が如実に現れています。
【土地面積】約457.20平方メートル
【当初の評価】路線価×面積(補正なし):相続評価額4572万円
【プロの評価】不整形地として評価:3730万円
【相続評価の差】842万円 相続税額差:336万円
斜めにゆがんでいるような土地は、補正率を適用させるにも複雑な計算が必要です。
多くの経験を積んでいるプロだからこそ対応できたのではないでしょうか。
事例②道路と地面に高低差がある土地
事例②のケースは、図面上は2つの路線に接しているように見えるため、当初は角地として評価されていました。
しかし、実際は高低差があり1方の道は現実的には利用できていなかったのです。
【土地面積】約325平方メートル
【当初の評価】角地として評価:相続評価額4944万円
【プロの評価】不整形地として評価:2893万円
【相続評価の差】2050万円 相続税額差:821万円
図面上接していた2つの道は、南側が14.5万円、西側は8.9万円でした。
角地など2つ以上の道路に接している土地は、通常、高い方の路線価を用いて計算します。
そのため、当初は「325平方メートル×14.5万円」に「二方路線影響加算(0.05%)」を加えて評価していたのです。
しかし、実際には、南側の道路とは1.5メートル以上の高低差があり、接道効果がないと判断しました。
そうして計算し直したところ、価格は半分以下にまで減額でき、821万円もの相続税を節約できたというわけです。
土地評価や相続税は税理士により変わる!プロに相談ください
土地の評価は、複雑です。
現地に赴き、実際の土地や周辺環境を見なければ、適切な補正率を用いることはできません。
屈折路に面した土地など、現場を見たところで、不動産に関係する専門の知識がなければ何をどう補正すれば良いかわからないケースもあるでしょう。
式に則って計算を行っていけば良いわけではないのです。
そんな時は、相続税を多く納めて無駄に負担を重くしてしまわないように、十分に知識を持ったプロに依頼してください。
相続税の知識だけがあっても、土地の評価はできません。
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