遺贈とは?遺産相続や贈与とは何が違う?
遺贈とは、故人の遺言に従って遺産の一部あるいは全部を譲ることです。
相続の対象は相続人のみですが、遺贈では相続人以外の個人や法人を指定することができます。
また、日本赤十字社などへの寄付を通じて、社会福祉活動の支援を行う手段としても有効です。
この記事では、遺贈をするための手続きや遺贈のメリット・デメリットについて、詳しく解説します。
遺贈とは?遺言なら相続人以外にも遺産をわたすこともできる
遺贈とは、遺言によって遺産の行き先を指定することです。
遺贈と同じく死亡を起因として故人の財産を譲る方法として「相続」がありますが、相続は法定相続人にしか財産を渡せません。
一方、「遺贈」なら、相続人を含む誰もが対象となるため、相続人以外の親族やお世話になった人などにも遺産を譲ることができます。
つまり、遺産の行き先が相続人であれば「相続」あるいは「遺贈」、相続人以外ならば「遺贈」といいます。
まずは、誰が相続人になるのかを確認しておきましょう。
相続人の範囲とは
相続人の範囲は、民法によって下記のように定められています。
●配偶者
亡くなった人(被相続人)の配偶者は、常に相続人です。
●配偶者以外の相続人
配偶者以外は、次の一覧に示す順序で相続権を持ち、配偶者と一緒に相続人となります。
第1順位 | 子ども ※既に亡くなっている場合は、子どもの直系卑属(孫、ひ孫) |
第2順位 | 父母 ※既に亡くなっている場合は、父母の直系尊属(祖父母、曾祖父母) |
第3順位 | 兄弟姉妹 ※既に亡くなっている場合は、兄弟姉妹の子ども(甥姪) |
相続人は、相続開始時点で確定
誰が相続人になるのかは、被相続人が死亡した時点での家族構成で決まります。
例えば、子どもが生存している場合、その子ども(孫)に相続権はありません。
被相続人が孫にも財産を残したいと思っていても、相続させることはできないということになります。
しかし被相続人が死亡したときに既に子どもが亡くなっていた場合は、孫が相続人になるというわけです。
遺贈には相続税はかかる?
個人が個人から財産を受け取った場合、かかる税金は贈与税です。
ただし、亡くなったことをきっかけとして財産を譲られた場合は、贈与税ではなく相続税の対象となります。
相続税がかかる場合
亡くなったことをきっかけとして個人に財産を譲った場合、相続人、相続人以外にかかわらず相続税の対象です。
ただし、相続税には基礎控除があるため、遺贈された財産額から基礎控除額を差し引いて残った金額が課税価格となります。
基礎控除額の算出方法
相続税の基礎控除額は「3000万円+相続人数×600万円」です。
相続人以外の受贈者は「相続人数×600万円」に含まれません。
例えば、遺産を受け取った人が「相続人が配偶者と子ども2人、相続人以外の受贈者」の4人だった場合の基礎控除額は次のようになります。
・基礎控除額:3000万円+(配偶者+子ども2人)×600万円=4800万円
この場合、相続財産の額が4800万円以下ならば相続税はかかりません。
相続人以外の相続税は2割加算
相続税額は、課税価格に相続税率をかけて算出します。
このときに注意しなくてはならないことは「相続人以外は、相続税額に2割の加算がある」という点です。
●相続人以外の相続税額2割加算
・相続税額:(課税価格×相続税率)×1.2
相続税以外の税金がかかるケース
「遺贈」によって受け取った財産が土地や家屋などの不動産だった場合は、次の税金も納める必要があります。
●不動産取得税
・不動産取得税額:不動産の評価額(固定資産税評価額)×税率4%
不動産取得税は、相続以外で土地や家屋を取得した場合に課される税金です。
※取得財産や時期によっては、税負担を軽減する特例措置が適用される場合もあります。
●登録免許税
・登録免許税額:不動産の評価額(固定資産税評価額)×2%
土地や家屋を取得した場合は、その名義を被相続人から移す手続きである「所有権の移転登記」が必要です。
「相続」や相続人に対する「遺贈」による移転登記の税率は0.4%ですが、相続人以外に対する「遺贈」の場合は2%と5倍になる点に注意しましょう。
対象者は誰になる?遺贈はボランティア・寄付活動に使うこともできる
遺贈の対象者は、「相続人も含む誰でも」ということになります。
個人だけでなく、法人や団体といった組織にも財産を譲ることができる点に注目しましょう。
遺贈対象の例【個人】
遺贈では相続人を含む誰もが対象となるため、相続人以外の親族やお世話になった人などにも遺産を譲ることができます。
特に遺贈が有効なケースとしては、次のようなものが考えられるでしょう。
●相続人以外の親族・姻族
・孫、兄弟姉妹、甥姪など
・息子の嫁
例えば、介護や看護などで親身に世話してくれた息子の嫁、配偶者に先立たれ子が独立した後で同居した兄弟姉妹などに財産を贈りたい場合など。
●戸籍上の婚姻関係、家族関係がない家族
・事実婚パートナー、内縁関係の相手
・養子縁組をしていない再婚相手の連れ子
相続における配偶者とは、正式な婚姻関係が結ばれている相手を指し、内縁関係や事実婚パートナーは含まれません。
同様に、養子縁組を結んでいない再婚相手の連れ子なども、親子関係が認められないということになります。
家族として同居生活を送っているという事実があっても、戸籍上の関係がない相手に財産を贈る場合は遺言書が必要となります。
遺贈対象の例【法人】
遺贈では、個人だけでなく法人や団体といった組織を受贈者として指定することが可能です。
そのうち、下記の法人や団体に遺贈した場合は相続税がかかりません。
・国、都道府県、地方自治体
・教育や科学振興などに貢献する特定の公益法人
・認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)など
遺贈寄付という選択
直接関わりのある企業や団体に財産を譲るケースもありますが、社会福祉団体や人道支援団体などに遺贈寄付をするというケースも珍しくはありません。
生きているうちは生活費や老後資金の確保で寄付をする余裕がないけれど、実は社会貢献やボランティアに興味があるという人もいるでしょう。
亡くなった後での寄付なら、生活に影響を与える心配がありません。
・自分の故郷や応援したい都道府県、地方自治体
・人道支援や災害救護、国際協力などを行っている団体
・科学や芸術など興味のある分野の振興事業団
・医療や障がい支援、教育などに関わるNPO法人
・野生動物保護、環境保護活動などを行っている団体 など
全国の金融機関窓口や遺贈寄付専門サイトなどでは、支援したい分野ごとに寄付先を探すこともできます。
興味のある方は関連ページの案内をご覧いただくなどして情報や資料を集め、遺贈寄付を検討してみるのも良いでしょう。
メリットとデメリットを解説
遺贈には、様々な可能性があることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
次は、遺贈のメリットとデメリットについてまとめておきましょう。
遺贈のメリット
遺贈をすることで得られるメリットは、次の2点です。
メリット①相続人以外でも、財産分与の対象となる
遺贈により財産を譲ることで、お世話になった相手に感謝を伝えることや、大切な人を守るための資金を渡すことができます。
メリット②法人や団体に寄付ができる
思い出の場所を守ることや誰かの命を救うこと、生前はかなわなかった支援をすることで社会貢献に携わることもできるでしょう。
遺贈のデメリット
遺贈のデメリットとして考えられるものは、主に次の2点です。
デメリット①遺産トラブルの可能性
被相続人にとっては、遺贈をすることで心残りをなくすことができるかもしれません。
しかし、相続人にとっては、遺贈によって自分の受け取り分が減ってしまうことになります。
遺贈先との関係や遺贈額によっては、受け入れがたくトラブルに発展する可能性もあるでしょう。
●遺留分侵害
相続人には、遺産のうち最低限の相続割合分を確保できる制度があり、これを遺留分といいます。
遺言によって、相続遺産額が遺留分を下回った相続人は、原因となった相続人あるいは受贈者に対して遺留分侵害額相当の金銭を請求することが可能です。
遺留分の割合は、相続人の組み合わせごとに下記の一覧に示す通りとなっています。
相続人 | 遺留分 |
配偶者のみ | 配偶者:1/2 |
配偶者と子 | 配偶者:1/4 子ども:全員で1/4 |
子のみ | 子ども:全員で1/2 |
配偶者と父母 | 配偶者:1/3 父母:全員で1/6 |
父母のみ | 父母:全員で1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者:1/2 兄弟姉妹:なし |
兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹:なし |
デメリット②負債を引き継ぐ可能性
遺産とは、不動産や家財、宝石貴金属、金融資産などの金品を得る「プラスの財産」だけではありません。
被相続人が残した借金や未払い金等「マイナスの財産」も含まれます。
遺言内容によっては、マイナスの財産を承継する可能性もある点に注意が必要です。
デメリット③相続税が高い
既に解説しましたが、遺贈によって財産を受け取った場合、遺産総額が基礎控除を超える場合は相続税を納めなくてはなりません。
又、受け取る側が一般法人の場合は、法人税の納税義務が生じます。
土地や家屋といった不動産の場合、価格が高くなりやすく相続税が課される可能性が高くなるうえ、不動産取得税などの手続きにかかる税金も納める必要があります。
相続税の納付は、相続開始から10ヵ月以内と期限が決まっているため、処分しにくい不動産を受贈した場合は別に納税費用を調達しなくてはならないのです。
遺贈の手続きを行う際の注意点や流れについて
それでは、被相続人として自分の財産を遺贈する際に必要な手続きについて解説しましょう。
【遺言者の手続き】遺贈のための遺言書作成
遺言書とは、被相続人の意思を伝える最後の手段です。
遺言書のない相続では、遺産分割の方法を相続人全員が協議して決定することになります。
しかし、遺言書がある場合は被相続人の意思が尊重されるため、遺言書の通りに遺産分割が進められるというわけです。
遺言書を作成する際の注意点は、下記の通りです。
特定遺贈と包括遺贈
遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」があります。
●特定遺贈
特定の物や権利、金額を指定した金融資産など、財産を特定した遺贈です。
「現金のうち500万円」「住所○○、○㎡の土地」など、何を与えるかを明確に記します。
記載のない財産、記載のない債務を承継することはありません。
●包括遺贈
特定の財産ではなく、遺産総額のすべて、あるいは割合を示して譲る遺贈です。
「財産の2割」「全体の30%」などと指定するため、具体的に何をどのように分けるかは相続人との協議によって決めることになります。
指示された割合に従って、債務などのマイナス財産も承継する点に注意が必要です。
相続トラブルへの配慮
相続人がいながら相続人以外への遺贈を行う場合は、遺留分を配慮するなどのトラブル回避対策をすべきでしょう。
自分が受け取るものだと思っていた財産を、別の人に譲ると言われれば相続人が驚くのは当然です。
生前から話し合うことも大切ですが、遺言書に付言事項としてメッセージを残すのも効果的ではないでしょうか。
●付言事項
付言事項は、遺言書に添える「感謝」や「願い」を表す文章のことです。
法的効力はありませんが、遺贈をしたい理由や相続人への思いを記すことができます。
例えば、「お世話になった○○さんに、感謝の気持ちとして遺産のうち1割を遺贈したい。どうか私の思いを理解してほしい」などと書くことで、相続人の気持ちをほぐすことができるでしょう。
【受贈者の手続き】遺贈に対する意思決定
遺贈とは、被相続人による一方的な意思表示です。
指定された人は、その遺贈を受けるかどうかを自由に判断することができます。
遺産トラブルに巻き込まれたくない、相続税が高くて払えそうにない、負債を承継したくないといった場合は、遺贈の放棄が可能です。
遺贈の放棄をする場合は、特定遺贈と包括遺贈で手続きが異なるため注意しましょう。
特定遺贈の放棄
特定遺贈を放棄する場合は、他の相続人に「遺贈を受けません」と意思表示をするだけでかまいません。
明らかにしておきたい場合は、放棄する旨を記した書面を遺言執行者や相続人宛てに用意すると安心です。
特定遺贈の放棄はいつでもできるものとされており、特に期限はありません。
しかし他の相続人にとっては、受贈者の意思表示が明確にならないと他の遺産分割に影響が出てしまいます。
そのため、相続人は受贈者に対し、期限を指定して意思決定を催促することが可能です。
この期間を過ぎても確かな返事をしない場合は、遺贈を承認したとみなされます。
包括遺贈の放棄
包括遺贈を放棄したい場合は、相続を知ってから3ヵ月以内に家庭裁判所で「包括遺贈の放棄(相続の放棄)」の手続きを行わなければなりません。
期限を過ぎると放棄できなくなりますから、包括遺贈を指定されたことがわかった場合は、速やかに相続人と連絡を取り情報を共有することが大切です。
遺贈のご相談はプロへ
自分の所有財産なのだから、自由に処分したいと思う人も少なくはないでしょう。
感謝や応援の気持ちを伝えたり、社会貢献や福祉活動を支援したりする手段としても、遺贈の活用は有効です。
しかし、記事でも紹介した通り、遺贈には様々な税金が関係してくるので、ひとつ間違うとトラブルの種になってしまいかねません。
遺贈を上手に利用するためには、プロの手を借りることをおすすめします。
税理士は、税金の専門家です。
相続問題を多く担当している税理士なら、節税対策を踏まえた適切な遺贈プランを提案することができるでしょう。
まずは、無料相談サービスなどを利用して、質問や情報収集してみてはいかがでしょうか。
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