公正証書遺言の作成方法やメリットについて解説
相続トラブル対策として有効な遺言書には、自筆証書遺言と公正証書遺言、秘密証書遺言という3つの方式があります。
なかでも、公正証書遺言とは、法律に詳しい公証人に内容を整理してもらいながら作成するため、執行時の無効リスクがない安全かつ確実な遺言書方式です。
本記事では、公正証書遺言の作成に必要な証人の調達方法や遺言書でできることなど、誰もが抱く疑問に答えながら作成手順の解説を行います。
公正証書遺言とは?
財産を持っている人が亡くなったとき、その財産は「遺産」として遺族に引き継がれます。
遺産を受け取る権利を持つ相続人は民法によって定められており、この相続人同士で話し合って遺産を分け合う方法が一般的です。
しかし、相続人の中に重度の認知症の人が居れば、成年後見人を家庭裁判所が選任しない限り遺産分割協議が成立しません。また、遺産の内容や相続人の関係性によっては、話し合いがスムーズにいかないこともあるでしょう。
他方、財産の所有者として、特定の人に相続してほしいという希望があるかもしれません。
そのような場合は、遺言書を作成しておくことをおすすめします。
遺言書の種類
遺言は、死後にその人の意思を伝える最後の方法です。
通常作成する遺言書は、公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3種類で、それぞれ方式が異なり厳格なルールが定められています。
方式に不備がある遺言書は無効になるため、しっかりとルールを把握しておくことが重要です。
●公正証書遺言
・遺言者が公証人に遺言内容を口頭で告げ、公証人が内容を整理して遺言書にまとめる。(専門家に依頼すれば専門家が遺言内容をまとめて公証人へ伝達)
証人2人の立ち会いが必要。
※法律に詳しい公証人が立ち会うことで不備・無効リスクが低い
●自筆証書遺言
・遺言者本人が、紙に遺言書全文と日付を自書し、署名押印によって作成する遺言書。
財産目録部分はパソコン作成可、通帳コピー可
※思い立ったタイミングに自分1人で作成できるが、不備が生じやすい
●秘密証書遺言
・遺言者が作成し署名押印して封印した遺言書を、証人2人の目前で公証人に提出し、「遺言者当人の遺言書であることの証明」を受ける
※パソコンでの作成や第三者の代筆でも可能なため、さまざまな事情を抱える人でも作成しやすい
いずれの方式でも、遺言内容を紙に記入して作成したものを遺言書といいます。
遺言内容を映像や音声によって残したものは、内容や真偽に関わらず遺言として認められません。
作成する際にまず知っておきたいこと
亡くなった人(被相続人・遺言者)が作成した遺言書がある場合、その相続は基本的に遺言書の内容に従って進められます。
そのため、相続発生後のできるだけ早い段階で、遺言書の有無を確認することが重要です。
もしも、遺言書のない相続として手続きを進めている最中に遺言書が発見された場合は、遺言書の内容に沿うようにやり直すこととなります。
このように大きな効果を発揮する遺言書ですが、どのようなことを書き残せるのでしょうか。
遺言書でできることについて説明します。
遺言書でできること【1】遺産の行方を指定する
遺言者は財産の所有者です。
自分の財産を自由に処分する権利を持っており、遺言書にて次のようなことを指定することができます。
相続に関する指定
相続人とは、遺言者の家族や親族のうち、相続する権利を持った人のことです。
配偶者は必ず相続人となり、その他の遺族は子ども、直系尊属、兄弟姉妹の順で配偶者と共に相続人となります。
相続人の範囲と順序、相続割合(法定相続分)は以下の通りです。
●相続人の順序と法定相続分
相続順序 | 法定相続分(配偶者あり) | 法定相続分(配偶者なし) |
【必ず】 配偶者のみ | 配偶者:全部 | - |
【第1順位】 子ども | 配偶者:1/2、子ども:1/2 | 子ども:全部 |
【第2順位】 直系尊属(親、祖父母) | 配偶者:2/3、直系尊属:1/3 | 直系尊属:全部 |
【第3順位】 兄弟姉妹 | 配偶者:3/4、兄弟姉妹:1/4 | 兄弟姉妹:全部 |
遺言書では、「長男に1/2、配偶者と長女で1/4ずつ」など、法定相続分とは異なる割合による分割を指定することもできます。
また、「不動産は長男、預貯金は長女」といった具体的な指定も可能です。
相続人以外の指定
遺言書のない相続では、基本的に相続人以外が遺産を受け取ることはできません。
しかし、遺言書では、相続人以外の親族や第三者、あるいは法人などを遺産の受け取り先に指定することができます。
これを「遺贈」といい、内縁関係の相手や事実婚パートナーなど、本来相続権を持たない相手にも遺産を渡せるというわけです。
遺言書でできること【2】相続人の身分に関すること
相続人は、遺言者が亡くなったときの家族構成によって決まります。
遺言書を作成する時点ではまだ、確定はしていません。
このままいけば相続人になるだろう人のことを「推定相続人」といいます。
遺言書では、この推定相続人の身分についても言及でき、これによって相続人の人数が変動する可能性がある点に注意が必要です。
婚外子の認知
相続人の表で示した通り、亡くなった人に子どもがいる場合は、優先的に相続人となります。
ただし、この場合の「子ども」は、法的な親子関係が必要です。
法的な親子関係は、母と子の場合は分娩の事実によって、父と子の場合は認知によって成立します。
遺言者が男性で認知をしていない子がいた場合、遺言書による認知が可能です。
遺言書でできること【3】遺産トラブルを防ぐ
遺言書による遺産分割の指定がない場合、どのように遺産を分割するか相続人同士で話し合うことになります。
この話し合いを遺産分割協議といい、相続人全員の合意がなければ成立しません。
相続人が配偶者と幼い子どもというケースでは、もめることはないでしょう。
しかし、相続人の人数が多いケース、配偶者と遺言者の兄弟姉妹などで関係性が薄いケース、さらに仲が悪いケースなどは、スムーズに進まない可能性が高まります。
遺産分割に不安がある場合は、遺言書を用いてあらかじめ遺産の行き先を定めておくと安心です。
推定相続人の廃除
遺言者に対して虐待や重大な侮辱を加えるような推定相続人がいる場合は、遺言者の請求によってその相続権を剥奪することができます。
請求手続きは2通りあり、1つは家庭裁判所に申告すること、もう1つは遺言書に記載することです。
これを、推定相続人の廃除といい、特定の相続人が明らかにトラブルの原因となる場合に効果があります。
認知症対策になる
遺言者が亡くなったときに、高齢による認知症、病気やケガの影響で認知能力が低下している相続人がいる可能性もあるでしょう。
しかし、認知能力が低下している相続人は、法的行為である遺産分割協議に参加できません。
ところが、遺産分割協議は相続人全員が参加しなければ成立しないのです。
このような状況では、成年後見専用の診断書を添付した「成年後見人選任の申立」を家庭裁判所に提出し、裁判所が選任します。時間も費用もかかります。
また、後見人は法的に被後見人の損にならないよう法定相続分は相続させる様に分割協議で主張し、家族の希望どおりとは限りません。
しかし、遺言書があれば、遺言者の希望する通りに相続手続きが執行されます。
遺留分に注意
相続人には、遺産を受け取れる最低限の割合「遺留分」があります。
自分の遺産取得額が遺留分を下回っていることを知った相続人は、法定相続分を超えて相続することになっている遺贈相手に対し不足額を金銭によって支払うよう請求することができます。
いくら遺言書によって自由に財産を処分できるとはいっても、本来の相続人をないがしろにするような内容では、かえってトラブルを招いてしまう点に注意しましょう。
公正証書遺言の作成に必要な書類と手順
公正証書遺言を作成する手順は、事前に弁護士や税理士などに相談したかどうかによって異なります。
以下は、特別な相談を行わずに公正証書遺言を作成する一般的な手順です。
手順1:遺言書の内容を考える
「遺言書でできること」を踏まえて、盛り込みたい内容を考えます。
公証人がまとめる際に遺言書としての体裁を整えてくれますから、財産の配分さえ決めて伝えればよく文章を考える必要はありません。
自由な書き方で、「誰に、何を、どうしたいのか」が明確になるように書き起こしておきましょう。
手順2:証人を手配する
公正証書遺言の作成には、証人2人の立ち会いが必要です。
ただし、以下に該当する人を証人として選出することはできません。
・推定相続人および受遺者(遺贈の相手)
・推定相続人および受遺者の配偶者や直系血族等の利害関係者
・未成年者
証人が見つからない場合
遺言者自身で、証人に適切だと思える人が見つからない場合には以下の方法を検討すると良いでしょう。
●公証役場に直接依頼する
公証役場では、証人の手配も可能です。
ただし、遺言書作成日の日当が必要となります。
●税理士や弁護士、司法書士、行政書士などの専門家に依頼する
専門家に依頼することもできますが、依頼料がかかります。
しかし、利害関係のない親族や友人・知人に証人を依頼するケースでも、相応の謝礼を支払うことが多いでしょう。
遺言書は個人的かつセンシティブな内容が含まれているため、プロに依頼して安心感を得るというのも1つの手です。
手順3:必要な資料を集める
公正証書遺言を作成するために必要な書類は、役所などの公的機関から取得する書類をはじめ多岐に渡ります。
遺言内容に関わらず必要な書類
遺言書の内容に関わらず、必要な書類は以下の通りです。
●遺言書本人の証明書類
印鑑登録証明書や在留カードなど本人確認ができる書類のうち、いずれか1つ
●遺言者の印鑑
通常は実印ですが、実印登録の無い方の場合は認め印
●遺言者と受遺者の戸籍謄本
遺言者と遺言書に登場する相続人との続柄を証明するため、両者の戸籍謄本
現在戸籍だけでは遺言者と相続人の関係が明らかにならないケースの場合は出生から現在までの戸籍も必要となります。
●証人の確認資料
公正証書遺言の作成に立ち会う証人それぞれの住所、氏名、生年月日の分かる資料(運転免許証のコピーなど)
遺産を渡す相手に対応する書類
遺産の受け取り手に相続人以外を指定する場合は、以下の書類も必要です。
●相続人以外の個人に遺産を渡す場合
受遺者の住民票、あるいは手紙やハガキ等、住所が明らかになる書類
●法人に遺産を渡す場合
その法人の登記簿謄本(登記事項証明書)、または代表者の資格証明書
※公に認知されている公益の団体の場合は不要
財産を証明する書類
遺言書に記載する財産に応じて、それを証明する書類が必要となります。
●土地や家屋などの不動産
①不動産の固定資産税納税通知書、または固定資産評価証明書
②不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)
●預貯金
銀行・信用金庫等金融機関の通帳の直近残高(コピー可)
●上場株や投資信託
直近の運用残高報告書やサマリー
手順4:公証人に遺言書作成を依頼する
書類が揃ったら、公証役場で遺言書作成を依頼します。
何度か足を運ぶ可能性があるため、通いやすい場所を選ぶと良いでしょう。
また、相談や依頼を行う場合は、事前に予約しておくほうがスムーズです。
公証役場は全国にあります。
最寄りの公証役場を探す際は、日本公証人連合会の公証役場一覧を利用すると便利です。
公証人と打ち合わせ
遺言書の内容をまとめたメモや必要書類を提出し、公正証書遺言の案を作成します。
遺言書作成日程の調整や流れの確認も行いましょう。
遺言の作成は、公証役場に出向くほか、公証人が遺言者の自宅や病院等に出張することも可能です。
遺言書の作成
遺言当日には、以下の流れで遺言書が作成されます。
①遺言者が、遺言内容を口頭で告げる
②公証人が事前に作成しておいた遺言書案を読み上げ、遺言者と間違いないことを確認する
③遺言者、証人、公証人が、公正証書遺言の原本に署名と押印をする
公正証書遺言の作成の際の注意点は?
公正証書遺言は、公証人を介して作成するため、方式の不備によって無効になることがありません。
また、完成後は公証役場で保管されるため、利害関係者による隠匿や破棄、紛失、改ざんリスクを心配する必要もないでしょう。
気軽に作成できる反面、方式の不備やリスクの高い自筆証書遺言と比較すると、圧倒的に安全かつ確実な遺言書方法だといえます。
作成には手数料がかかる
メリットの多い公正証書遺言ですが、作成には手数料が必要です。
手数料については、遺言の目的である財産高に応じて、公証人手数料令という法律で金額が定められています。
手数料の基準は下表の通りです。
●公正証書遺言の手数料基準表(公証人手数料令第9条別表)
相続または遺贈を受ける人ごとに、取得する財産額に応じた手数料を算出し、合算します。
全体の財産が1億円以下のときは、さらに1万1000円が加算される点に注意が必要です。
目的の価額(不動産の場合は固定資産税評価額) | 手数料 |
100万円以下 | 5000円 |
100万円超200万円以下 | 7000円 |
200万円超500万円以下 | 1万1000円 |
500万円超1000万円以下 | 1万7000円 |
1000万円超3000万円以下 | 2万3000円 |
3000万円超5000万円以下 | 2万9000円 |
5000万円超1億円以下 | 4万3000円 |
1億円超3億円以下 | 4万3000円+(超過額5000万円ごとに1万3000円) |
3億円超10億円以下 | 9万5000円+(超過額5000万円ごとに1万1000円) |
10億円超 | 24万9000円+(超過額5000万円ごとに8000円) |
相続税に関する相談はできない
公証人は、裁判官や検察官、あるいは弁護士の経験を有する法曹資格者や、それに準ずる法律に関する専門知識を持っています。
そのため、複雑な内容であっても法律的に整理された内容の遺言書として作成できるという点もメリットの1つです。
しかし、このとき、公証人に「誰にどの財産を相続させると節税になるか」「次世代の相続を見越した遺産分割方法はあるか」といった相談をすることはできません。
公正証書遺言は、あくまでも遺言者が考えた内容を公証人が整理してまとめるという方式です。
内容についての具体的な相談がしたい場合は、また別の専門家に相談する必要があります。
特に相続税に関する相談は税理士資格を有していないと税理士法違反になるので最初から税理士を交えた方が良いでしょう。
公正証書遺言の作成は相続に強い専門家へ相談
遺言書によって遺産相続の対策を講じようと考える場合、重要な点は遺留分への注意と節税対策ではないでしょうか。
相続税の計算は複雑です。
遺産の内容が同じでも、どの相続人が受け取るかによって2次相続税も増減したり、非課税制度が適用されたりして、納税額には大きな差が生じます。
せっかく公正証書遺言を作成するのなら、その前に税務の専門家に相談しておくと安心です。
相続に強い税理士ならば、それぞれの家族構成や財産内容に応じた適切な節税対策を提案できます。
ただし、税務は種類が多くそれぞれに専門分野が異なるため、相続税専門税理士に依頼することが大切です。
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