遺言書で遺産を一人で相続できる? 遺言書の書き方や注意点をわかりやすく解説
誰か特定の一人に自分の遺産を全て相続させたいと思う方もいるでしょう。
その場合、その旨を記載した遺言書を作成すれば、遺産を特定の誰か一人に相続させることが可能です。
しかし、遺言書の内容によっては、相続人同士のトラブルに発展してしまうリスクがあるので、注意しなければなりません。
この記事では、遺産を一人に相続させるための遺言書の書き方を、ケーススタディを交えながら分かりやすく解説します。
遺留分など注意すべき点についても詳しくまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
遺言書で遺産を一人で相続できる? 相続時のケーススタディ別にご紹介

遺言書は、遺産相続において被相続人(亡くなった方)の意思を尊重するための重要な手段です。
被相続人は、遺言書によって生前に相続の内容を自由に指示できるため、自分の財産のゆくえを自分で決めることを希望する場合は、遺言書を作成するとよいでしょう。
遺言書なら、遺産を法定相続人以外の人に渡したり、法定相続分とは異なる割合で配分するよう指示したりすることもできます。
誰か特定の一人だけに遺産を相続させることも、遺言書であれば可能なのです。
一般的に、遺産を一人に相続させたいケースにはどのようなものがあるでしょうか。
ケース1:配偶者に全ての遺産を相続させたい
子のいない夫婦の場合、「配偶者だけに財産を残したい」と思うことがあるかもしれません。
例えば夫が妻に全遺産を相続させたい場合、遺言書を作成することで、妻は夫の遺産を単独で相続することができます。
ただし、夫に子どもがいる場合は注意が必要です。
子どもには遺留分が認められるため、遺留分を侵害してしまうと、後々トラブルに発展する可能性があります。
ケース2:子ども一人に全ての遺産を相続させたい
一人っ子ではなくても、事業の承継や同居で世話になっている、跡取りなどを理由に「複数人の子どものうち一人だけに相続させたい」と思うケースも少なくありません。
そのような場合、遺言書を作成するだけで、一人の子どもに単独で遺産を相続させることが可能です。
ただし、他の兄弟姉妹がいる場合は、遺留分に注意して遺言書を作成するようにしましょう。
遺留分を侵害する内容の遺言書では、後々、遺留分侵害額請求などで子同士がもめたりすることも多いのです。
ケース3:法定相続人以外の一人に全ての遺産を相続させたい(遺贈)
民法で定められた相続権を有する人のことを法定相続人といい、配偶者や子ども、親がこれに該当します。
遺言書がない場合、この法定相続人が遺産を相続するのが一般的です。
しかし遺言書を作成すれば、内縁の妻や友人など、法定相続人以外の人に全遺産を相続させることができます。
これを遺贈といい、法定相続人以外の人や団体に、全ての遺産を譲ることが可能です。
ただし、前述の遺留分侵害額請求だけでなく、特定の人に遺贈する場合は、相続税の税率が、法定相続人に相続させる場合よりも高くなる可能性があることを覚えておきましょう。
遺産を一人に相続させる遺言書の書き方を解説

遺産を一人に相続させたい場合、どのような遺言書を書けばよいのでしょうか。
ここでは、遺産を一人に相続させる場合の適切な遺言書の書き方について具体的に紹介します。
遺言書の種類
遺言書の種類は大きく分けて、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つです。
1人に相続させるかどうかに関わらず、一般的には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」のどちらかを作成することになるでしょう。
● 自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、財産目録ページ以外の本文は自筆で書く必要がある遺言書です。
日付を書き、署名を行った後、印を押します。
署名も必ず自筆で行わなければなりません。
作成も書き直しも自由な点がメリットですが、自分で作成するため不備が発生しやすく無効になるリスクが高いことがデメリットです。
● 公正証書遺言とは
公正証書遺言は、公証人に作成してもらう遺言書です。
自筆証書遺言と違い、法的な効力を備えた公的な文書として作成されます。
費用や手間はかかるものの、確実性が高い点はメリットとして大きいでしょう。
遺産を一人に相続させるための遺言書の書き方
先に紹介したケーススタディのように、「配偶者だけに相続させたい」「一人の子どもだけに相続させたい」ということもあるでしょう。
そういったケースの場合、次のような遺言書を作成します。
【文例:全財産を1人(妻)に相続させる遺言書】
遺言書 遺言者 ○○○○は本遺言書により、以下の通り遺言する。 1 次の財産を含む遺言者の有するすべての財産・債務を、妻○○○○(生年月日)に包括して相続・負担させる。 (1)土地 所在地 ______________ 番地 ____ 宅地 地積 ___ (2)建物 所在地 ______________ 家屋番号 ___ 木造瓦葺2階建て 床面積 1階部分 ____ 2階部分 ____ (3)動産 上記(2)の建物内にある家具家財道具一式 (4)預貯金・有価証券 ・〇〇銀行 預け入れの預金 ・〇〇証券 に預託している上場株式・投資信託 (5)預貯金・有価証券 ・〇〇銀行の貸金庫内に保管しているすべての財産及び書類 ○年○月○日 |
全財産を一人に譲るわけですから、財産目録を省略して「遺言者の有する全ての財産と債務を、妻○○○○(生年月日)に包括して相続・負担させる」という書き方も可能です。
しかし、相続では、相続税を算出するために遺産総額を把握しなければなりません。
生前に所有財産の目録や一覧にまとめておけば、残された配偶者や子どもの作業負担を軽減することにもつながるわけです。
なお、上の文例の「妻○○○○(生年月日)」という部分には、法定相続人への相続であれば、続柄・氏名・生年月日を記載します。
相続人以外に遺贈する場合は、氏名・生年月日・住所を記載し、末文を「遺贈する」としましょう。
≪関連ページ≫
●全財産を相続させる遺言書の書き方、文例をご紹介
また、三種類の遺言の方式についてはこちらの記事をご参照ください。
≪関連ページ≫
●遺言書(自筆証書遺言)を作成する際の書き方とポイントを文例付きで解説
遺言書で遺産を一人に全部相続させる場合の遺留分などの注意点

遺言書があれば、一人に全部相続させることができると分かりました。
仮に複数いる子どものうち長男に全て与えたいという場合も、遺言書にその旨を書くことで希望に沿った相続が可能です。
ただし、遺言書を作成する際には、法律の要件を満たしていること、そして遺留分に注意しなければなりません。
もしも遺言書によって遺留分を侵害してしまうと、遺留分を侵害された相続人から遺留分侵害額を請求される可能性があります。
つまり、被相続人には自らの財産を自由に処分する権利、生前贈与や遺贈、寄付などで財産を動かす権利がありますが、その一方で、相続人には財産を受け取る権利があるのです。
遺留分とは?
遺留分とは、被相続人(亡くなった人)の兄弟姉妹を除く法定相続人に認められた、最低限の取り分になります。
つまり、「これだけは最低限取得できますよ」という遺産の割合のことです。
特定の一人に全ての遺産を相続させる場合も、遺留分には十分に配慮する必要があります。
遺留分権利者と遺留分割合
遺留分の権利を持つ人とその割合について、以下の通り一覧にまとめました。
相続人の組み合わせ | 遺留分の割合 |
---|---|
配偶者と子ども | 配偶者:1/4、子ども1/4÷子どもの人数 |
配偶者と父母 | 配偶者:1/3、父母:1/6÷父母の人数 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者:1/2、兄弟姉妹:なし |
配偶者のみ | 1/2 |
子どものみ | 1/2÷子どもの人数 |
父母のみ | 1/3÷父母の人数 |
ここでの注意点は、「兄弟姉妹には遺留分の権利が一切ない」ということです。
配偶者と兄弟姉妹が共同相続人であるケースでは、兄弟姉妹に遺留分の権利がないため、配偶者のみの時と同じく、配偶者が1/2の割合を有します。
相続人の組み合わせごとに遺留分の計算が異なるため、ご自身がどの例にあたるか次のページを参考に確認してみるとよいでしょう。
≪関連ページ①≫
●遺留分の割合を相続人別で詳しく解説!計算方法や手続きの流れ
≪関連ページ②≫
●遺留分の計算方法を解説!
遺留分侵害額請求
先ほども触れましたが、遺留分を侵害された相続人は、遺産を多く取得した者に対して金銭で遺留分相当額を請求することが可能です。
これを遺留分侵害額請求といいますが、実際に請求するか否かは自由で、被侵害者が遺言内容を知った日から1年又は相続開始から10年で請求権を失います。
遺産を一人に相続させる場合の遺言書では、遺留分侵害額請求があった場合に支払えるよう、次項のような備えも大切になります。
遺言書の保管
遺言書について、もうひとつ注意してほしいことは、遺言書の保管です。
せっかく前もって遺言書を作成しても、いざ相続が発生した時に見つからなければ元も子もありません。
また、家で保管する場合は紛失や改ざんのリスクを避けることも大切です。
現在は、法務省が行っている自筆証書遺言書保管制度を利用することも可能なので、安心かつ確実な遺言書の保管方法を検討してみてはいかがでしょうか。
遺産を一人に相続させるために事前準備しておきたいこと

ここまで、遺産を一人に相続させる場合、トラブルになるケースもあることをお伝えしてきました。
このようなトラブルは、事前に準備をすることである程度は防ぐことができます。
生命保険の死亡保険金を利用する
生命保険契約の死亡保険金は、予め受取人が指定されているため、原則として遺産分割対象に含まれません。
また、受取人の固有財産とみなされるため、遺留分算定の基礎遺産額からも原則的に除外されます。
つまり、遺言書で特定の一人に相続させる場合でも、生命保険を活用することで、遺留分侵害額請求に備えることができます。
例えば、複数の兄弟のうち長男のみに遺産を全て相続させたとしましょう。
次男から遺留分侵害額請求を受けたとしても、前もって長男を受取人とする生命保険を契約しておくことで、侵害額相当を保険金からまかなうことができます。
●生命保険の死亡保険金を利用する場合の注意点
生命保険の加入時期や保険金額によっては、相続税がかかる対象となる場合がある点に注意が必要です。
保険契約時には専門家に相談するなどして対策しましょう。
遺言書の付言事項を残す
遺言書の付言事項とは、遺言に追加できる記載事項のことで、法律上の効力は有しません。
感謝や希望などを記した手紙のようなイメージです。
しかし、付言事項で家族などにメッセージを残すことは、後のトラブルを減らすためにも有効でしょう。
●付言事項の役割
なぜ特定の相続人に多くの遺産を相続させるのか、その理由を付言事項として具体的に書いておくことで、相続人の理解を得やすくなります。
付言事項に法的拘束力はありません。
しかし、相続人の間の感情的な対立を緩和し、遺留分侵害額の請求を抑制する効果が期待できます。
●付言事項の記載例
「長男は、会社を辞めて私が病気の際に献身的に看病してくれたため、その寄与に応えるべくすべての不動産を相続させます」
「長女の○○は、長年、遠方に住みながらも毎週、食事や風呂、洗濯など介助をしてくれました。その優しさに深く感謝しています」
「友人の○○さんには、長年にわたり公私ともに支えていただきました。熱く御礼申し上げます。自営業をここまで続けられ、家族が何の不自由もなく生活できたのは○○さんのお力添えあってのことです。どうか遺留分の請求はしないでください」
このように付言事項には、感謝の言葉、遺産分配割合の理由、遺留分に触れつつ、受け取る方の心情に配慮した前向きな言葉を添えるとよいでしょう。
●付言事項に関する注意点
付言事項は、感情的な言葉だけでなく、具体的な事実に基づいて記載することが大切です。
相続人への非難や不満、攻撃的な言葉は逆効果になる場合があるので、避けましょう。
専門家への相談
遺留分に関する問題は複雑なため、弁護士や税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
遺留分を考慮した財産配分案の作成や、遺留分侵害請求のリスクを軽減するためのアドバイスをもらうことができるでしょう。
遺産を一人で相続する遺言書をつくってもらう場合は兄弟姉妹の了解は必要?

遺産を一人に相続させる内容の遺言書を作成するにあたって、他の兄弟姉妹の了解は必ずしも必要ではありません。
しかし、遺言書の内容によっては親族間の不仲につながる可能性があります。
遺言書の優先
遺言書は、法定相続よりも優先されるものです。
そのため、遺言書に「特定の誰かに全ての遺産を相続させる」と記載されていれば、原則としてその通りに遺産が分配されます。
遺留分
ただし、法定相続人(配偶者、子ども、両親など)には、それぞれ遺留分という最低限の遺産取得分が認められていることは、先にもお伝えした通りです。
事前の報告なく、特定の一人だけが相続することを突然知る側の心情を考えると、前もって他の兄弟姉妹の了解を得ていたほうがトラブルは起こりにくいでしょう。
円満な相続のために注意したいこと
遺言書を作成する上で、他の相続人の了解は法律上必須ではありません。
しかし、円満な相続のために感情的な反発を防ぐことは重要です。
特に、遺産額が大きい場合や、兄弟姉妹間の関係が良好でない場合は、後々トラブルに発展する可能性が高まります。
特定の誰かに相続させる際に、他の相続人の了解を得ることが法律上は必須でなくとも、遺言の内容を伝え、理解を得ておくことが望ましいでしょう。
遺産分割協議書は遺言で一人が相続する場合であっても必要?

遺言書に則り一人が遺産を相続する場合、遺産分割協議は原則として必要ありません。
遺言書は、被相続人の最後の意思表示です。
基本的に遺言書の内容が明確で、全ての遺産について相続人として一人が指定されている場合、法定相続分よりも遺言書が優先され、その内容に沿って相続手続きを進めます。
しかし、遺言書がある場合でも、下記のように遺産分割協議書を作成するケースもあります。
そもそも遺言書が有効なのか
見つかった遺言書が自筆の場合は、特に注意が必要です。
法律で定められた形式を満たしていない場合、その遺言書は無効となり、改めて相続人の間で遺産分割協議が必要となります。
したがって、遺言書の無効を疑う場合は速やかに専門家に相談しましょう。
また、有効性の高い遺言書として、公正証書遺言を作成する方法があります。
遺言書に記載されていない遺産が見つかった場合
遺言書は、遺言書の作成時に存在する遺産に限り、効力を持つものです。
そのため、遺言書に記載されていない遺産が見つかった場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分配方法を決定する必要があります。
相続人全員が遺言書の内容と異なる遺産分割に合意した場合
遺言書は、相続人全員の合意があれば、その内容と異なる遺産分割を行うことが可能です。
この場合、合意内容を証明するために遺産分割協議書を作成します。
遺言書の内容が不明確な場合
遺言書の内容が曖昧で、遺産の分配方法が明確でない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分配方法を決めることが可能です。
遺言書で一人が遺産を相続するよう指定した場合、原則として遺産分割協議書は不要となります。
しかし、上記のように例外的なケースでは、遺産分割協議書を作成する必要があるわけです。
ご自身のケースで遺産分割協議書が必要かどうか判断に迷う場合は、弁護士や司法書士、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。
「遺産分割協議って何?もっと基本的なところから知りたい!」という方には、こちらのコラムがおすすめです。
≪関連ページ≫
●遺産分割協議の提案と相続の仕方の基本を解説
相続時にスムーズに遺産相続させたい場合は専門家にお任せください。

今回は、遺産を一人に相続させるための遺言書の書き方や注意点について解説しました。
遺言書を作成することで、被相続人(亡くなった方)の意思に沿った遺産分割が可能になります。
その一方で、遺留分や遺産分割協議書など、考慮すべき点も少なくありません。
もしもご自身で遺言書を作成することに不安があり負担に感じる場合や、相続に関する疑問がある場合は、専門家への依頼を検討してみてはいかがでしょうか。
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